80・道中にて その二
「……お?」
「どうしました?ルカ様」
サラが作った素朴だが家庭的な味のスープを飲みつつ、ひたすらに捌いた肉を焼いていたら、瑠華は男達の気配がこちらへと近付いてくるのに気付いた。
どうやらやっと動く気になったようだ。
「男達が動いた。こっちに近付いてくる。お前達はそのままでいいからな」
「はい、分かりました………あの、ルカ様」
シンが躊躇いがちに声を発したので、瑠華は街道に向けていた視線をシンへと向ける。
「…………やっぱり冒険者って人と戦うこともあるんですよね?」
「………まあな」
見るとサラも不安そうな顔で瑠華を見ていた。
「同じ冒険者と戦うこともあるよ。一番多いのは盗賊かな。それに魔物の中にも人型の魔物だっている。
お前達にはまだ人間と戦わせるつもりはない。けれどいずれ戦わせる。相手を捕らえるか殺すかはその時次第になるけど」
「え?殺すんですか?」
「当然、と言いたいけれど、それは僕の意見だからね。お前達がどうしても無理なら殺すことはないよ」
シンとサラはあからさまに安堵したように息を吐いた。
「ただし……僕の邪魔はするな。このことについて問答するつもりもない。もし邪魔したならば、その時はお前達を切り捨てる」
「そんな………」
「………盗賊は兵士に言えば報償金が出ますし、奴隷商に連れていけばお金になると聞きましたが」
「報償金が出るのは指名手配されている者のみだし、奴隷商まで連れていくのが面倒くさい」
「…………成る程」
サラは青い顔でスープをかき混ぜていて、シンは考えるように腕を組んでいた。
シンの目の前で焼かれている肉が焦げそうになっていたが、テトが器用に前足で串を掴んで葉っぱの上に置いていた。
「テト、大事な可愛い毛が燃えたらどうするんだ?僕がやるからいいよ」
「毛はまた生える」
そういう問題じゃないんだよぉぉぉ!
分かってくれないテトに、瑠華が説教をしようとした時に、漸く男達が現れた。
「おぅおぅ!てめぇら!命が惜しかったら、その食事を渡してもらおうか‼」
「「「…………」」」
何言ってんだ?こいつ。
そう思ったのは僕だけではないらしい。
「び、ビンゲ様!食事だけじゃなくて有り金全部ですよ!」
「そうですよ!肉が一番ですが、荷物は全部頂きましょうよ!」
「俺達は肉があればそれでいいです‼」
「「お前等は黙ってろ‼」」
もう一度言おう。
なんだ?こいつら。
一般的な下級冒険者の格好をした男達は、漫才のような掛け合いをしつつ、目は食欲をそそる香ばしい匂いを漂わせている肉に釘付けだった。
「………腹減ってんのか?」
「ば、馬鹿野郎‼腹なんか減ってねぇよ!いいからさっさと肉を寄越しやがれ‼」
その時、「ぐぅ~」という音が静まったその場に響いた。
全員がビンゲと呼ばれた男の腹に注目した。
「………てめぇには護衛依頼の時の仮もある。あの時てめぇのせいで、俺達は報酬を減らされた。てめぇが余計なことをしなければ、俺達はちゃんと報酬を貰えたんだ!てめぇが奪ったんだ!だから今度は俺がてめぇのもんを奪ってやる!がっはっはっは!」
顔を赤くしたビンゲは、胸を反らせて言い切った。その周りにいた男達は、拍手をしながらよいしょしていた。
「ルカ様、どうするんですか?」
「はぁ~……アホらし……」
深くため息を吐いた瑠華は、アイテムボックスから白い小瓶を取り出し蓋を少しずらす。そして風魔法でそよ風程度の風を作ってビンゲ達に流した。
すると風が届き、小瓶に入っていた粉を吸ったビンゲ達はその場に倒れた。
突然のことにシンとサラが目を丸くしていた。
「え?なにがあったの?」
「ルカ様、なにしたんですか?」
「ユメミ草の粉を蒔いただけだよ」
ユメミ草とは睡眠薬に使われる薬草である。速効性で使いすぎると身体に害を及ぼす薬。
瑠華が使ったのはユメミ草をそのまま粉にした物なので、強いものだがほんの少しだけだったので良しとしよう。
「まぁ、半日は目が覚めないと思うがな」
「ユメミ草ですか。こういう時便利ですね。でもあの人達、あのままで大丈夫ですかね?」
「さて、ね。例の魔物のせいか、この辺りには魔物の気配がない。喰われたのか、逃げたのかは知らないがな」
ここまで歩いてきて、一度も魔物には会わなかった。テト達がいたとしても一匹も会わないのは可笑しい。そもそも気配がないし。
「運が良ければ生きているだろ」
その後は特になにもなく、まったりと食事をして過ごした。
「あのルカ様、本当にいいんですか?俺達がテント使ってしまって」
「ああ、気にするな。サラと二人になるわけにもいかないんだし、お前達が使いなさい」
「すみません、ありがとうございます」
マジックテントの中でサラが水浴びをしているので、瑠華とシンはそれぞれテトとリトを枕にして寝ていた。
「ごめんね、お兄ちゃん、お待たせ」
「それではルカ様、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「はい、おやすみ」
二人がテントの中に消えて少し経った頃、瑠華は立ち上がりローブを脱いだ。
黒いシャツに黒いズボン、膝上まであるブーツという軽装になり、アイテムボックスから〔宵闇〕と〔蒼穹〕を取り出し腰の左右に差す。
「マリア、マジックテントの周りを空間遮断してくれないか?二人が起きたら悪いからね」
「分かったわ」
「行くのね?」
「ああ、ちょっと遊んでくる。マリアとムツキはここにいてね」
マリアとムツキが抗議の声を上げたが、撫でて落ち着かせ、テトに跨がる。
「テト、魔物の気配は感じるか?」
「ああ、若干だがな」
瑠華達は例の魔物がいるであろう方向へと駆け出した。
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