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68・見限られた街 その一

 「クク、来たか。ここで待っていれば必ず来ると思っていたぞ。さぁ、大人しく一緒に来てもらおうか」


 マレッティの街から少し離れた街道にて、只今人相の悪い薄汚れた男達と相対しております。






 コッシュトーの街を早朝に出て、テトとリトにそれぞれ跨がり駆け出して数時間。



 以前シンとリトが盗賊達に出会った場所に差し掛かったら、左の森から盗賊達が現れた。

 一番初めに現れた男がシンを見て気持ち悪い笑みを浮かべた。


 その笑みを見て、瑠華は目深に被ったフードの下で顔をしかめた。他の者も瑠華同様、嫌そうな雰囲気を醸し出している。


 「あれがシンを知っている盗賊か」


 小さく呟きながら瑠華はシンに視線を向ける。その視線を受けて、シンはこくりと頷く。


 「なら先ずは彼奴からだな」


 テトから降りて腰に差したミスリルの長剣を抜きながら、盗賊達に向けて一歩踏み出したがその体勢のまま、斜め後ろにいるシンに顔を向ける。


 「シン、リトと一緒に後ろに下がっていなさい。怖かったら目を瞑ってな?」

 「……………はい」


 ニィっと三日月のように口角を上げて瑠華が笑うと、シンは一瞬怯えたようにビクッとして頷いた。

 ナニかを察したようにマリアとムツキが瑠華のフードから出て、テトの背中に乗った。


 瑠華は首を傾げつつ、テトの頭を撫でる。


 「では、行ってくる」




 改めて思うと疑問がありすぎたので、瑠華達は一つ一つ疑問を晴らすことにした。

 一気に全てが解決すれば簡単だが、そうは問屋が(おろ)さないだろう。



 ということで先ず一つ目、トリロ伯爵は盗賊と繋がっているのか?

 その二、何故盗賊がシンを知っているのか?



 だからシンを知っている盗賊だけ、捕らえよう。他は必要ないので殺す。盗賊などやっているんだ、自分達が殺されるのも捕らえられるのも承知の上だろう。


 盗賊は生け捕りにして兵士につきだすと、謝礼か恩賞をもらえるけれど瑠華は面倒臭がりなので、そんなことはほとんどしはしない。



 「さて、敵は三十人強。生け捕りは一人」


 瑠華は確認するように呟く。後十数メートル先には、自分が話しかけたにも関わらずなんの反応も示さずに話をする様を見せつけられ、顔を赤く染め青筋を浮かべた凄い形相の男がいた。


 瑠華達の、さも眼中にありません!という態度が男をそんな顔にさせているようだ。


 「てめぇ、ふざけてんのか?」


 瑠華はその問いにも答えず、そして歩みも止めない。


 「へぇ、俺達とやろうってか?ハッ、止めときな!てめぇみてぇな優男じゃ、俺達にはかなわねぇよ!力でも数でもな!」


 男は下品に黄色い歯を剥き出しにして笑い、周りの盗賊達も便乗する。

 瑠華はそれらにも一切反応せずに、残り十歩程の所で足に“気”を巡らせると、力を入れてたった一歩で男達の眼前に迫る。


 「可哀想に………“戦闘”の心得も知らないなんて、ね」


 シンを知っている男の真横にいた盗賊を、ミスリルの長剣を下から振り上げ股間から頭まで真っ二つにする。


 「……………え?」


 他の盗賊達は何が起こったのか分からずに呆然としているのに、シンを知っている男は起こった事象を認識し、間抜けな声を出した。

 瑠華は目深に被ったフードの下で愉快そうに、それでも少しの感心を込めて歯を見せて笑う。


 「それなりに場数を踏んでたか」


 男の真横でしゃがみこみながら横に一閃剣を振るう。男の足首から下が斬り取られ、男はバランスが取れずに倒れる。

 その時になって漸く自分の身体の異変に気付き、痛みに絶叫する。


 これで目的の一つは達したので、残りの邪魔な有象無象共を始末してしまおう。



 瑠華がミスリルの剣を上に下に横に振る度に、命を狩られ盗賊達の数は減っていく。

 あんまりな急展開に意識がついていかずに突っ立ったままだった男達は、間抜けな顔のままその命を散らしていく。



 ……………状況判断、遅すぎじゃね?



 心底呆れながら目の前の男の胴を上下に斬り分ける。

 瑠華から一番遠くに居た男達は、身体を反転し逃げようとするがそのまま血渋きを上げて前のめりに倒れた。


 「悪いな、盗賊は一人も逃がすつもりはない」


 剣を鞘にしまいつつ淡々とした声音で呟く。


 瑠華の周りには血の海が広がっていた。その中に一人で立っている瑠華の姿は異様な光景だった。




 「相変わらず容赦ないな」

 「それはどうも」

 「……………流石『血狂い』」


 それは言うな!



 離れていたテトが近付いてきてそんなことを言ったが、聞き流した。テトの背中に乗っていたマリアとムツキが、瑠華に飛び付きフードの中に滑り込みいつもの定位置につく。

 シンはまだ後方に下がったままだ。どうやらリトが留めているらしい。


 足首から下を斬り取られ無様に血の海で這いずっている男に向き直る。



 「さ~てと、さっさと終わらせよう」

 「早く終わることを祈ろう」


 男の前に回り込み、よく顔が見えるようにしゃがみこむ。所謂(いわゆる)ヤンキー座りだ。


 「お前に聞きたいことがある。話したくないとか言わないでくれ。主に僕の為に」

 「主は面倒くさがり屋だからな、早くしないと死なさせてくれって思うようなことをされるぞ?」


 二メートルを超える魔物の出現と同時に、テトが言った内容にも恐怖を抱いたようで怯えた目を瑠華に向けた。


 「テト、余計なこと言わないでよ。怯えて口が聞けなくなったら、それこそ面倒だろ?」

 「我は円滑に進めたいだけだ」

 「テトの存在自体が“円滑”から遠いよね」


 怒ったような唸り声を響かせたテトに、楽しげに笑う瑠華。

 その二人を恐怖に引きつった顔で見つめる盗賊。



 数十人の死体が転がる血の海には、不釣り合いな雰囲気だった。




 「おっと、失礼。では改めて聞こう。お前達は誰かに雇われてるのか?」

 「………そ、それは…………」

 「ああ、その反応でわかる。じゃあ次、お前達を雇っているのはマレッティの領主、トリロ伯爵?」

 「……………」

 「はい、分かった。じゃあ最後、お前はあの子を知っているみたいだけどどうして?」


 盗賊の男は明確な答えを言っていないけれど、顔を見れば分かる。思わず笑ってしまいそうになる程に、この男は腹芸が出来ないらしい。


 けれど最後の質問は明確な答えを言ってもらわないといけない。こればかりは誰の意見も推測の域を出ないからだ。


 「……………」

 「(だんま)りは止めろよ」


 口をつぐんだ男の右目に、アイテムボックスから取り出した掌サイズの小刀を突き刺す。

 勿論死なないように、脳に届かないように眼球のみを、だ。


 「ぎゃああああああ‼」

 「煩いね、叫ぶだけならもう一つ、耳でも削ぎ落とすかな」

 「ひぃぃ⁉わ、分かった!話す、話します!だからもう止めてくれ‼」


 瑠華が(わざ)とゆっくり小刀を動かして耳に向ければ、盗賊の男は涙と鼻水を垂れ流しながら懇願した。



 というかこんな小刀で耳が斬れるわけ……………あるか。僕だったら普通に出来そう。



 「で、どこで知ったの?」

 「と、トリロ伯爵が言ってたんだよ!あのシンってガキの妹だかに逢って、そいつと同じ瞳の色をした一三、四くらいのガキを見たら連れてこいって!必ずマレッティの街に帰ってくるから、捕まえろって!もしかしたら貴重な炎晶石を持ってるかもしれないから、それは俺達が好きにしていいって!そいつだと分かったのは妹と顔が似てたからだよ!」


 トリロ伯爵の目的は炎晶石ではなくシン?

 え?なんで?


 「理由は?」

 「理由は知らねぇ…………ほ、本当だよ!俺達は金さえ貰えればそれで良かったんだ!仕事の理由なんて聞いたこともねぇよ!」


 典型的な力バカな盗賊だな、こいつら。


 「他には…………ああ、そうだ。シンの両親が盗賊に殺されたらしいけど、お前なにか知ってる?」

 「い、いや、知らねぇ……」


 ああ、これは本当に知らないようだね。


 「そうか、ならもういいよ」


 立ち上がりながら言うと、男はあからさまにほっと息を吐いた。



 他の奴等もそうだけど、どうしてこの状況で見逃してもらえるなんて思うのだろうね?



 「じゃあ、死ね」

 「え?」


 男には見えない速度で抜刀し、上から首を胴から斬り離す。男の間の抜けた声とほぼ同時だろう。


 「ふむ、取り敢えずの情報は得られたな」

 「新たな疑問も出てきたけどね」


 腕を組んで考えながらシンとリトの元に向かおうとして、テトに後ろから注意された。


 「主よ、せめて後始末はしようか?」

 「おや、失礼」


 振り返り男達の死体が転がる惨状を一瞥し、アイテムボックスから火の魔石を取り出し放り投げる。

 火の魔石が割れた場所から炎が燃え広がり、全てを燃やす。

 これで血の匂いで魔物が引き寄せられることもなくなる。


 「まったく、森が近くにあるというのにそんな無造作に…………」

 「やだなぁ、ちゃんと考えてるよ?」


 小首を傾げながら言ったら、何故かじと目で見られた。


 男の死体から距離を取るように大回りに迂回して待っていたシン達と合流する。




 「シン、大丈夫か?」

 「………なんとか」


 青ざめた顔色をしているシンに問いかける。確かに顔色は悪いが、声はしっかりしていた。

 死体を見て気分が悪くなったか。一般市民なら当然の反応だろう。


 「シンの妹ってさ、似てるの?君に」

 「え?はい。俺達は二人とも父親似なんです」

 「ふ~ん、なら彼奴が言っていたのは間違いなさそうかな」

 「妹がどうかしたんですか?」


 瑠華は盗賊の男から聞き出したことを伝える。


 「俺を連れてこいってなんで…………」

 「さあ?まぁ、マレッティのトリロ伯爵の所に行くのは変わらないから、その時に聞けばいい」

 「そう、ですね………」



 再びそれぞれテトとリトに跨がり、マレッティの街を目指して駆け出す。


 マレッティの街はもうすぐだ。







 マレッティの街の門の近くまで来て、テトとリトから降りる。身体を一撫でしてから、影に入ってもらった。リトもシンの影に入る。


 門には二人の兵士が居たが、他に街に入ろうとする人はいない。兵士達もやる気無さそうに立っていた。


 瑠華達が近付くと流石に居住まいを正すと思ったら、一瞥を寄越しただけで何も言わない。



 おい、こら。



 ちょっぴりイラっとしたが、シンは気にした風もなく兵士に近付き身分証を見せた。

 瑠華も肩を竦めてシンに続き、ギルドカードを見せる。


 本当に何も言われず門をくぐる。少し先で待っていたシンに、思わず愚痴ってしまう。


 「いつもあんな感じ?」

 「……………そうです。彼奴等は兵士の格好をしていますが、盗賊らしいです。彼奴等に襲われた事がある人が言っていました」

 「トリロ伯爵っていうのは随分どうしようもない奴みたいだね。ちょっと逢うのが面倒くさくなったよ」

 「俺も妹のことがなければ、逢いたくない人物です」



 歩きながら話をしつつ、街を見回す。通りにはほとんど住民は歩いておらず、店も閉まっているところが目立つ。

 道にいるのは武器を携えた者、冒険者か兵士。


 なんとも殺風景な光景だった。


 廃れているっていうのは本当のようだ。



 「トリロ伯爵の屋敷はどこ?」

 「この道の奥です。館の前に兵士が立っているのですぐに分かると思います」

 「了解。まだ時間には余裕がある。このまま行こう」

 「はい」



 さて、この先に何があるんだろうね。






読んで頂いてありがとうございます。


次は22日の20時投稿です。

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