61・道中の出来事
朝の鐘がなって少し経った頃に、サピセスの街を出る。
冒険者なら本来、街から街に移動するなら依頼を受けるのが常識だ。
依頼の中には荷物運び、商隊の護衛などがある。これ等の依頼は他に比べると高報酬、高ポイントだから冒険者は率先して受けたがる。
しかし人や物を“守る”ということは言葉では簡単だが、実際は難しい。単純に考えて守るものが増えるわけだから、当然だろう。
それ故にギルド側はこれ等の依頼を、Dランク以上に定めている。更に初めて受ける者には、しっかり説明と注意を促す。
けれどDランクに成り立ての者は力に溺れている者が目立つ。世間一般的に見てDランクは、ベテランとまでは言わないがある程度の力量があると見なされるからだ。
だからDランクになると調子に乗る者が多い。
ギルド側はこれを分かっているのでしっかり説明と注意をするのだが、ちゃんと聞いている者は一握りだろう。
天狗になってしまった者は、一度鼻を折らないと理解しないのだから。
その場が人や物を“守る”場だった場合は、ギルド側も依頼者側もたまったものではないけれど。
話は逸れたが瑠華もDランクになったので、荷物運びや護衛などの依頼を受けられる。
しかし昨日の様子を考えるに、ギルドに行ったら即行でギルドマスターが来るか、部屋に呼ばれるかの可能性が高い。
サピセスのギルドには行かないのが無難だろう。
【カイン】であった時も余程の事情でもない限り、それ等の依頼は受けなかった。めんどくせ………………えへん、自分では力不足だと言って。
という訳でギルドには寄らずに街を出た。先ず目指すは国境になってる砦。そこを抜けるとルッシャート王国になる。
フードの中にいるマリアとムツキが左右の肩に顔を出している。眼鏡とフードを直しつつ、影から出たテトに跨がり駆け出す。
ダンジョンを消滅させてから一日しか経ってないから、まだ感じる魔物の気配は多くそして強い。
徐々に落ち着くだろう。
ちなみにヤカサルの村を出て帰ってくるまでに、四日経っていた。ほぼ一日のズレがあったことになる。
やはり集中し過ぎると時間を忘れる癖は治した方がいいかな?シンには悪いことをした。
魔物を避けながら砦を目指して駆け続けていると、遠くに小さな砦が見えた。国境の砦としては些か頼り無いものだ。
砦の城壁の上に居た兵士が、瑠華に気付き慌てて近くの兵士に何か言ってるのが見える。
「主よ、このまま行ってよいか?」
「いいよ。どちらにせよルッシャートに行くには兵士が居る場所を通らなくちゃいけないんだから。面倒くさいが仕方ないさ」
「歩くという選択肢は……………」
「ないね」
ないったらないよ。
兵士が居並ぶ扉の前に来て、テトから降りる。兵士の中から一人前に出てきたので、瑠華もテトを伴い歩を進める。
兵士は胸に隊長を示す飾りをつけている。
「冒険者か?身分証を見せてくれ」
ローブの中から出す振りをしてアイテムボックスからギルドカードを取り出して兵士に渡す。
兵士は確認するとすぐに返した。
「立派な魔物だな。君の従魔か?」
「ええ、自慢の子なんです」
「そうか。では問題はないので通って構わないぞ」
何事もなく砦を通ることが出来た。
砦を出てからまたテトに跨がり、サランヴィーネの港街がある右方面に向けて駆け出す。街はここから二日程だから、テトならゆっくり行っても今日の夜には着くだろう。
いつもより比較的ゆっくりと風と景色を楽しみながら進む。
すると前方に気配を感じる。
「主、人間と魔物の気配だ」
「ふむ、襲われているのかもしれないな。このまま行くと遭遇する?」
「確実に。どうする?避けるか?」
「う~ん、このままでいいよ。避けるのは馬鹿らしいし」
「あい、分かった」
速度を緩めず進めば、横転した馬車とその周りに冒険者数人、更にそれを囲むように円を描くように陣取ったボア種が数十頭見えた。
明らかに冒険者側の方が劣勢で、既に何人か倒れている。
あれでは殺られるのは時間の問題。
「テト、止まって」
テトが止まり、瑠華を窺うように首を巡らす。
さて、この場合どうするか。
他の冒険者達の戦いには手を出さないのがルール。助けを求められたら助ける。このまま行けば求められそうではある。
けれど状況が悪い。あんな風に広範囲に広がられると、守るのも難しい。
馬車が死角になり見えない部分もある。剣では一気にとはいかない。
守る対象がいて一頭ずつ相手するのは愚直すぎる。
その時、馬車の前で冒険者に守られるように、父親とみられる男性と抱き合って震えていた少女が瑠華に気付く。
―――たすけて
声には出ず、しかし唇は確かにその言葉に動いた。
瑠華は少女に頷き、敵の位置を確認する。敵はまだ瑠華達に気付いていない。
瑠華は目を閉じ魔力を練る。
『紫電の光、空から降り注ぎ全てを貫き焼き尽くす。それは神の鉄槌か。人はその光に己の罪を見る。天より来たれ、インディグネイション』
凄まじい光と音と共に空から雷が落ちる。
『インディグネイション』は雷属性の上級魔法である。本来は一ヶ所に集まっている対象に向かって撃つ広範囲の魔法だ。
しかし完璧で精密な魔力制御で、狙った対象にのみ当てる事が可能だ。
瑠華は円を描くボアの見えている奴だけを対象にして撃った。雷は全てに当たり、真っ黒焦げの消し炭になった。
瑠華がやったことは雷属性の下級魔法『サンダー』でも、同じことが出来なくはない。
ただ若干ではあるが『サンダー』で十数本出すよりも『インディグネイション』の方が使う魔力が低く、魔力制御が楽で威力も高いので瑠華はこちらを選んだ。
突然目の前に落ちた雷に驚いた冒険者達は、辺りを見回して瑠華達に気付いた。
死角にいた魔物達は雷に驚き、消し炭になった仲間を見て逃げ出した。
「いきなり魔法を放ったのは悪いと思うけれど、まだ魔物がいるのに意識から外すなんて素人だな」
「まぁ、その通りだが主が言ったら可哀想だぞ。やった張本人なのだから」
テトの言葉に、瑠華は肩を竦める。それから馬車の方に歩き出した。
読んでいただいてありがとうございました。
なかなか話が進まず申し訳ないです…………




