59・差し伸べた手を
まだシンの視点です。
コッシュトーの街の門に着き、兵士にマレッティの身分証を見せる。
「マレッティの者か。出稼ぎか?」
「…………はい、そんなところです」
「そうか。あの街の者も大変だな。何も出来ないがせめてこの街ではゆっくり休んでくれ」
「……………………ありがとうございます」
兵士は俺の肩を軽く叩くと通してくれた。気さくな兵士だな。
この街はあまり大きくはない。ヴァルザ火山やその周辺の散策をするなら、この街で補給するからそれなりに人の出入りは激しい。
今はヴァルザ火山(閉鎖になってるかは知らないけれど)は危険地帯になってるみたいだから、冒険者達はちらほら見えるけれどいつもより少ないみたい。
でも住人はとても増えて街全体は活気づいてるように見える。
それもそうだろうと思う。
なにせマレッティの街の三分の一程の住人が、この街に流れ込んだようだから。
更に三分の一の住人がサランヴィーネの港街に行ったみたいだから、実質マレッティの街は三分の二の住人を失ったことになる。
それは仕方ないことだとは思うけれど、やはりとても悲しい。マレッティの街を愛していた者としては。
でもヴァルザ火山が閉鎖してるから、この街も人が減ってしまうのかな?
ここならサランヴィーネが一番働き口が多いし、大きい街だもの。
ルッシャートの首都という選択肢もある。
でも他の人には絶対に言えないけれど、ヴァルザ火山に出現したダンジョンは消滅したから少し経てばまた元通りになるよな。言えないのが心苦しいけれど。
俺も首都か港街のどちらかに行こうと思う。
“約束”を果たした後に。
サラと一緒に。
門から少し外れた道に安くて良い宿屋がある。前に父さんと一緒に何度か泊まったことがある。
今の持ち合わせならギリギリ泊まれる。
宿屋の前に着いて戸を開ける。
「いらっしゃいませ!あら、シンじゃない!一人で来たの?」
「お久しぶりです、レカさん。父はいません」
「あら、偉いわね。この街に来る気にはなった?」
「すみません。今もサピセスの街に行った帰りに寄ったんです。一泊朝食付きでお願いします」
レカさんはこの宿屋の女将さん。ご主人と経営していて、小さな娘もいる。
レカさんにはずっとこの街に来なさいって言われてるけど、父が断っていた。俺達家族は皆マレッティを愛していたから。
「そう、残念だわ。一泊ね、お得意様だから、銀貨一枚でいいわ」
「ありがとうございます。助かります」
レカさんから鍵を受け取り、部屋に行く。何度も通った宿屋だから、場所も分かってる。
部屋を見つけて入り、鍵をかける。するとリトが影から出てきた。
「お疲れ様、シン。何もなくて良かったわ」
「ありがとう、リト。明日はマレッティまでよろしくお願いします」
「任せない。それとシン、そろそろその敬語は止めなさい。普通に話してくれていいわ」
「そう?じゃあ、そうするね」
客商売だから敬語は無理してないけど、やっぱりずっとだとちょっと疲れる。
「主にも普通で良いのよ?そういうことにすっごく‼煩いというか厳しい子だけど貴方なら普通に話しても何も言わないわよ」
尤も厳しいって言っても一部に対してだけだけどって言葉が小さく聞こえた。
一部ってなんだろう?
「でも年上の人にはなかなか、ね。癖っていうか。まぁ、ルカさんがいいって言ったらね」
「貴方の好きになさい。それより夕食はいいの?」
「うん、このまま寝ようかなって」
リトに乗ってただけだから、そんなに疲れてはいないけど。
「そう。なら早く休みなさい」
「うん」
ルカさんから借りている服には、しっかり『清潔』の魔法をかけて畳んでおく。
そういえばもう気にもしなくなったけど、俺って笑われるような格好してなかったっけ?
でもレカさんは何も言ってなかったからいっか。
翌朝、朝の鐘が鳴る前に目を覚ました。
昨日も自分にかけたけど、もう一度『清潔』の魔法をかけて身綺麗にする。
リトが影に入って、炎晶石が入った布をしっかり持って部屋から出て入り口に向かう。既に起きて宿の掃除をしていたレカさんが気付いたので、挨拶をする。
「おはようございます、レカさん」
「おはよう、シン。早いわね、よく眠れた?」
「はい、大丈夫です。朝食お願いできますか?」
「ええ、すぐに持っていくから席に着いて待ってて」
一階の食堂では数人の人が食事を取っていた。俺も入り口に近い所で適当に座る。
程なくしてレカさんが食事を持ってきてくれた。朝だと考えるとちょっと多かったけれど、夕食を食べてないから完食できた。
その後、レカさんに挨拶をして宿屋を出る。門に向かって歩き、門から出る人達が列を作っていたので最後尾に並ぶ。
それほど待たずに番がきて、兵士にマレッティの身分証を見せる。やはりマレッティの住人は今“特別”な意味を持つから、兵士の顔が一瞬で変わった。
けれどこの兵士は何も言わずに通した。
正直、こういう扱いの方が有り難い。何か言われても俺もどういう反応をしていいか困るから。
街から離れて暫くすると、リトが影から出てきた。
「じゃあ、マレッティに向かうわね?少しゆっくり走るから、着くのはお昼過ぎになるわ」
「分かった。よろしくね」
了承するようにリトが力強く鳴き駆け出す。魔物は襲ってくるけどリトが避けるし、リトを見て逃げ出す魔物もいる。
普通なら考えなれないくらい楽な道のりだった。
マレッティの街が近付き街道の左に森が広がる場所まで来た。ここまできたら本当に後少しだ。
その時突然リトが声を出した。
「あら、嫌だわ」
不思議に思って前方を見ると、街道を塞ぐように馬車が散乱していた。
盗賊にでも襲われたのかな?と思ったら、リトが急に立ち止まった。危うく落ちそうになってリトにしがみつくと、ひゅんっと音が聞こえ少し前で何かが刺さったような音まで聞こえた。
前を見ると一本の矢が刺さっていた。リトが左を見ていたので、俺もそちらに向くと森の中から盗賊にしか見えな風体の顔つきの悪い男達が現れた。
「へっへっへ。よう、兄ちゃん、随分良い魔物持ってんじゃねぇか。俺達に寄越せよ、良い値で売り払ってやるよ」
男達は下品に笑っている。
無理だと思う。
「ああん、怖くて声が出ねぇか?安心しろよ。お前も奴隷商に売ってやるから。きっといいご主人様に買ってもらえるさ………………ん?」
リトが盗賊達を無視して行こうと歩き出した時、リーダー格の男が俺を見て怪訝な顔をした。
「お前、もしかしてシンってガキか?」
「え?」
「てことはその手に持ってるのは炎晶石か?」
盗賊の言葉にリトが止まる。俺も固まってしまった。
どうしてこいつらが俺のことを知っている?炎晶石のことまで。
やっぱりあの噂は本当なのか?
「こいつは運がいい。お前を見つけたら連れてこいって言われてるんでな、一緒に来てもらおう。その炎晶石は俺達が有効に使ってやるよ」
その言葉に俺は戦慄した。
「リト!戻って!お願い‼」
俺の言葉の意味をちゃんと理解してくれて、リトはコッシュトーの街に向けて駆け出した。
男達は追いかけようとするけれど、リトの足には追い付けない。
かくいう俺も振り落とされないように必死にリトにしがみついた。
盗賊達から離れ、コッシュトーの街の近くに来るとリトが止まった。
「シン、降りなさい」
言われた通りに降りる。リトは俺の方を向き、真剣な声で問いかけてきた。
「シン、貴方あいつらを知っているの?」
「…………いいえ」
「そう。でもあいつらは貴方を知っていた。心当たりはあるの?」
「………………」
心当たりはある。
「あるのね。シン、貴方一人でマレッティに行って大丈夫なの?」
「………………」
「………………貴方の事情については知らないし、聞く気もなかった。でももし貴方が助けてほしいのなら、そう言いなさい」
「え?でもそれは…………」
今までさんざん迷惑かけたのに、これ以上かけてもいいのだろうか?
でもあんな奴等がいるなら俺一人では駄目かもしれない。
助けてほしい。
「いい、シンよく聞きなさい。主は他人に興味がないわ。特に人族はどうでもいいと思ってる存在。貴方のことも今は関心がないと思うわ」
「………………」
「でもね、貴方が手を伸ばしたら主はその手を取るわ。絶対にね。だって私がいるもの」
確かにリトが言ってくれたら、ルカさんは助けてくれるだろう。
「私は何も言わないわよ。あのね、主は“今は”貴方に関心がないわ。貴方の事情を聞かなかったもの。でも気にはかけているの。後は切っ掛けだけ。私がその証拠」
「……………証拠?」
「そう。主は私達従魔を大切に、家族と言って大事にしてくれるわ。使い魔という魔物ではなく、家族という存在としてね。私達はその事を誇りに思っている。
従魔は主の意思を尊重する。だから私が言ってることは間違っていることだと思う。それでも私は言うわ。
私達を大事に思ってる主が、どうでもいいと思ってる人の護衛につけると思う?私は思わないわ。だから言うの。主を頼りなさい」
ルカさん、貴方に迷惑しかかけない俺が差し伸ばした手を、貴方は取ってくれますか?
読んでいただいてありがとうございました。
次は英雄に戻ります。
シンの事情については延ばすつもりは全然なかったのですが、作者の文才の無さのせいです。すみません……………




