58・マレッティへ
今回はシン視点です。
ルカさん達と別れ、リトと共にヴァルザ火山を下っていく。
「そういえばこのローブだけでも返した方が良かったんじゃないかな?」
シンは自分が着ている〔穏やかな風〕のローブを摘まんで示して見せる。
「あら、別にいいんじゃないかしら。主も何も言わなかったのだから。きっと忘れていたのね」
「あはは」
俺から言うべきでしたね。すみません、ルカさん。
俺はヤカサルの村で目覚めてからの不思議な出来事に思いを馳せる。
目覚めて初めて見たあの人は、紺のローブのフードを目深に被り顔が見えなかった。その事にいつもなら警戒心を抱くけれど、あの時の俺はそんなことを気にしている余裕はなかった。
ヴァルザ火山に行って炎晶石を手に入れる、それだけが頭の中を占めていた。
だから助けてもらったらしいあの人に、簡単な礼だけをしてヴァルザ火山にもう一度向かおうとした。
そしたらあの人に止められたんだよなぁ。あの時は本当に怖かった。本気で殺されるかと思ったんだよな。
その後あの人がヴァルザ火山に行くのを知ってお願いしたんだよな。最初は断られたけど、同行を許してくれた。
その時にあの人が「解析」スキル持ちだって教えてくれたけど、良かったのかな?
尤もあの人なら、他にも驚くことばかりだから気にならないのかもしれないけれど。
朝起きて従魔達を紹介されて、魔法が付与された装備品をぽんっと出して貸して、見たことない程の凄い剣技と魔法、見える人が少ない精霊様が見えて、貴重な魔道具沢山持ってて………………
うん、「解析」スキルがどうでもよくなってきたな。
そういえば俺が着てた服、あの人に預けたままだ。まぁ、いいか。大分ボロボロになってたし、あの人も捨てるだろう。
そしてあの人のお陰で炎晶石を見つけて手に入れられた。
本当に心から感謝してもしたりない。
腕の中にある布に包まれた炎晶石を、もう一度強く抱き締める。存在を確かめるように。
「シン、もうすぐ入り口が見えてくるわ。大丈夫?」
「はい、大丈夫です。リトはこのまま一緒にいて兵士に何か言われませんか?」
「大丈夫よ。街の中なら兎も角、外なら何も言われないわよ。驚かれるとは思うけどね。それにこんなところで貴方一人の方が色々言われるわね」
確かに。炎晶石も持ってるし。
そのままリトを伴って入り口まで行く。すると入り口に立っていた騎士(兵士ではない。騎士の身分を表す鎧を着ている)が俺達に気付き、剣を向けて警戒している。
俺よりリトを警戒するよね。だってリトとテトって見た目ちょっと怖いもんね。大きいし。
よくルカさんは可愛いなんて言えるよな。それもあの人らしいけど。
「そこで止まれ!」
言われた通り、騎士から少し離れた位置で止まる。
「冒険者か?身分証を見せてもらおう」
「どうぞ。でも俺は冒険者ではなく、見習いの商人です」
リトに剣を向けつつ近付いてきた騎士に、マレッティの身分証を渡す。
リトが剣を向けられて、若干苛ついているのが伝わってくる。
「商人がこんなところで何をしている?今のヴァルザ火山は危険地帯だぞ?それにその魔物はお前の従魔ではないのか?」
矢継ぎ早に質問しないでほしいな。
「サピセスの街に炎晶石を求めに。途中まで冒険者の方と一緒でしたが、事情があり別れました。この子はその人の従魔です」
「お前の従魔ではないだと?ちゃんと躾はなっているんだろうな⁉」
「心配せずとも人間ごときに興味はないわ。私は我が主の命でこの坊やの護衛をしているだけ。分かったらさっさと通しなさい」
煩い騎士にリトが怒ってしまった。俺もイラっとしたから止められないけど、そもそも俺の言うことなんて聞いてくれないだろうし。
それにしても“坊や”って……………
騎士達は言葉を話したリトに驚愕していた。
それはそうか。言葉を理解し話すのは大体Sランク以上の魔物か幻獣だ。そこいらにいる騎士や冒険者ではまず相手にならない。
「そ、そうか。だが分かっていると思うが、そいつが問題を起こしたら責任はその冒険者かお前が問われるんだからな‼」
「はい、分かっています」
リトの威圧に当てられたように後ずさりながら騎士が言った。リトは問題なんか起こさないよ。
騎士の横を通り、ヴァルザ火山を出る。すんなり通れて良かった。後はマレッティに帰るだけだ。
待っててくれ!サラ!もうすぐ迎えに行くから!
リトの首に掛かっていた〔万年雪の雫〕を外して、炎晶石と一緒に布に包む。
「さて、ここからマレッティの街までどれくらいかしら?」
「馬車で三日程ですね」
「そう。私なら半日くらいで着くわね。でももう日が傾き始めているから、着くのは夜になってしまうわ。途中の街で休みましょう」
リトがそう提案したけど俺は早くマレッティに帰りたい。でもリトに無理はさせられない。
「シン、私は貴方の心配をしているのよ」
「え?」
「私は半日程度本気で走っても大丈夫だけど、貴方はそうじゃないでしょ?人間なんだもの、休憩が必要だわ。だから途中の街で休むの」
早く帰りたいけど、リトの言う通りだ。足手纏いだけはなっちゃいけない。
「ならコッシュトーの街がちょうどいい位置にありますよ」
「コッシュトーね。場所は知っているわ。じゃあ行きましょ」
リトが駆け続けて日が沈む前に小さな街が見えてきた。ここでリトが減速し、立ち止まる。
「どうしたんですか?リト」
「私はここまでにした方がいいわね」
リトの言葉を聞き、背から降りる。
「街の人に見られたら騒ぎになりますからね。俺なら大丈夫です」
「そう?ならいいわ。私は貴方の影に入るから、一人になってしまうけど気をつけてね?」
リトが心配そうに言ってくれた。思えば彼女にもずっと守ってもらっている。
今は何も返せないけれど、いつかきちんと返したい。
「まだマリアが俺の影にかけた魔法は発動してるんですか?」
「ええ、マリアが解かない限り解けたりしないわ。本当はずっと側にいたいけど、〔従魔の首飾り〕をしてないから貴方の従魔だと誤魔化せないもの。でも大丈夫よ。何かあったら私が守るからね」
「ありがとうございます」
あの人がしていたように、感謝を込めてゆっくりとリトの体を撫でる。
リトが影に入り、いよいよ一人になった。
一気に不安になったけど、ここでつまづいてちゃいけない。
俺は一つ深呼吸をして気合いを入れると、コッシュトーの街へ歩いていった。
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