57・別れ
熱い……………
今は〔穏やかな風〕のローブを着ていないので、熱さがそのまま身体を襲う。
『ダンジョンを消滅させたか』
厳格な声が耳に響き上空を見上げると、ダンジョンの入り口があった場所に火の精霊が浮かんでいた。
彼は感心するように、興味深いモノでも見るように瑠華達を見つめていたがすぐに興味を失ったように顔を反らす。
『とりあえず礼を言おう。助かった。だが此処は私の領域。人間が居て良い場所ではない。さっさと去れ、人間』
そんな言葉を残して消えていった。
「ふむ、相変わらずつれないね。火の精霊様は」
「火の精霊様がいらしたんですか?」
「ああ、彼も“去れ”と言うしここを離れよう」
瑠華達は火口から離れ、入ってきた道を目指す。その途中ルッシャート王国に出る道の前まで来ると、シンが立ち止まり瑠華を呼び止める。
「あの、ルカさん……………」
「ん?」
瑠華は後ろにいるシンに向き直る。シンは真剣な表情で瑠華を見つめていた。
「ルカさんはヤカサルの村に戻るんですよね?俺はルッシャートに行きますのでここでお別れなんですが、お借りしている服はどうしましょう?」
「あれ?君はヤカサル………トシュッゲルの人間じゃないの?」
てっきりヤカサルか或いはサピセスの街の住人かと。
「いえ、俺はルッシャートのマレッティの街の者です。事情があってトシュッゲルに行ったんです」
マレッティか。一度だけ行ったことがあるけれど、特に何かあったわけではないから印象は薄いな。
「そうか、ならここでお別れだな。でも一人だと不安だからリトを護衛に付けるよ。服はマレッティに着いて着替えたら、リトに持たせてくれればいいよ。僕も一旦サピセスの街に行くけど、その後ルッシャートに行くからね」
「ありがとうございます。最後までお世話をかけてすみませんでした。またお逢いできたらその時はきちんとお礼させて下さい」
「気にしなくていいよ。僕達も君に力を借りたし、なにより楽しかったからね」
瑠華の言葉に同意するように従魔達が声を上げる。シンは嬉しそうに、はにかみながら笑った。
「はい、炎晶石。その氷は火の魔法で溶かせるから」
「はい、分かりました。」
アイテムボックスから氷に覆われたままの炎晶石を取り出し、適当な布に包んでシンに渡す。
シンは両手で受け取り、落とさないように大事そうに抱えた。
「では俺はこれで。本当にありがとうございました」
「うん、リト、シンを頼んだよ」
「ええ、任せなさい」
最後に深くお辞儀をしたシンは、リトと共にルッシャート側の道を降りていった。
「では僕達も行きましょうか」
「よく忘れてなかったな?」
「ついさっき思い出したんだ」
「そんなことだろうとは思ったよ」
……………なんか悔しい。
行き止まりの道を下り行きに飛び越えた崖まで来る。そのまま問題なく飛び越え林に戻った。
「そういえば〔穏やかな風〕だけでも先に返してもらえばよかったかな」
テトから〔万年雪の雫〕の首飾りを取りながら思い出す。一八階層でシンに渡したまま、すっかり忘れていた。
「ああ、そういえば。まぁ、すぐにリトと合流するだろうし別にいいじゃないか」
テトに跨がり林を抜ける。ヤカサルの村は特に行く理由もないので素通りし、サピセスの街に向かう。
街までは数時間程か。太陽は傾きかけ始めたところだから、夕方の鐘を少し過ぎたくらいに着けるだろう。
今日はサピセスの街で一泊になりそうだ。
魔物を避けて駆け続けてサピセスの街に着いた。街の門が近付き兵士の姿が見える位置でテトから降り、体を撫でながら礼を言い影に入ってもらった。フードに入っているマリアとムツキの首には〔従魔の首飾り〕をかける。
瑠華も被っているフードを目深に直す。
空は薄暗くなっていて、遠目にも街には魔道具の灯りがそこかしこで光始めていた。
「通行証の提示をお願いいたします」
通行証代わりのギルドカードをアイテムボックスから取り出し兵士に見せる。
久しぶりに感じるやり取りを済ませ街に入る。
先に冒険者ギルドに行こう。このくらいの時間なら、既に冒険者達は手続きを済ませ酒場に繰り出している頃だろう。
門から街の中心に向かい、そこから左に反れて冒険者ギルドに着く。
戸を開け中に入ると冒険者はそれなりにいたが、ほとんどが併設されている酒場に居て酒を飲んで騒いでいた。
三つある受付の中で比較的人が少ない列に並んだら、以前話をした人族の女性だった。
「お帰りなさいませ、ご苦労様でしたってあら?」
「こんばんは。以前受けた依頼の処理をお願いします」
どうやら相手も瑠華のことを覚えていたようだ。
「分かりました。少々お待ちください」
受付嬢に依頼の紙とギルドカードを渡すと、席を外し奥に行ってしまった。
少しの間ボケっと突っ立っていたら、受付嬢が帰ってきた。
「はい、こちらが依頼の報奨金と魔物の素材の売却金となります。これに伴い、ルカ様のランクはDランクになりましたのでギルドカードも変更しておきました」
「……………え?」
うっそ!マジかよ…………Eになればいいなと思って魔物を売却したけど、多く出しすぎたか。
一気にランクを上げるとギルドに目をつけられて、余計な厄介事に巻き込まれるんだよな。
まぁ、いいか。明日早朝に街を出よう。
「何かありましたか?」
「いえ、何も」
「そうですか………………ところでランクXの依頼についてですが」
「では!僕はこれで!」
不穏な空気を感じたので受付嬢の話をぶった切り、ギルドカードとじゃらじゃら鳴るお金が入った袋を掴み踵を返す。後ろから名を呼ぶ声が聞こえたが、気付かぬふりしてギルドを出た。
やれやれ、またテトから小言を言われそうだな。
読んでいただいてありがとうございました。




