55・三十階層
「…………きれい………………」
後ろからシンの小さな呟きが聞こえた。
確かに姿はとても綺麗で美しい。神々しいと言ってもいい。まるで神話に出てくる神の使徒のよう。
セラフとは熾天使という意味だから、あながち間違ってはいない。
セラフユニコーンは先ずテトを、次いで瑠華に視線を向けた。そして三対の翼を大きく広げて羽ばたき、十メートル程浮かび滞空した。
そのまま体の周りに十数個の火の玉を顕現させ、瑠華に向かって放ち自らも火の玉を追うように躍りかかる。
狙いを僕にしたか。
「流石、魔法の構築が速い。でもね…………」
十数個の火の玉が瑠華に当たる前に、横からテトが氷の礫を放ち相殺させるようにぶつける。
瑠華の少し前で焔と氷の魔法がぶつかり、相反する魔力により爆発した。
周囲に熱と冷たさが混ざった風と煙吹き荒れ、視界が遮られる。瑠華は前方から目を反らさず、金属バットを持つように剣を鞘がついたまま両手で持ち、そのまま動かずにいた。
次の瞬間、風と煙を裂き前足を振りかぶったセラフユニコーンが瑠華の目の前に現れる。
瑠華はその場でくるんっと横に一回転してセラフユニコーンの攻撃を避け、遠心力を利用して敵の足を斜め上に振り払った。
セラフユニコーンはキレイに前に一回転し、ドッシンっと重たい音を立てて仰向けに倒れた。
馬の仰向けってなんて滑稽なんだろう。
自分でやったこととはいえ、あんまりな姿に一瞬見入ってしまった。
折角の神々しい姿が台無しである。
だがそれも一瞬、セラフユニコーンに真上に飛び上がりミスリルの剣を下に垂直に構え、起き上がろうと横に倒れた敵の心臓目掛けて突き刺す。
セラフユニコーンの体は一度ビクンっと震えもがき足掻いていたが、すぐに動かなくなった。
瑠華は一つ息を吐き、セラフユニコーンの上から降りる。そこにテト達が集まってきた。
「相変わらず容赦ないな」
「倒すべき敵に情けなんか無意味でしょ?さっきはありがとうね、テト」
援護について礼を言ってテトの頭をゆっくりと撫でる。〔万年雪の雫〕の効果でとっても冷たい。テトは気持ち良さそうに目を細めていたが、瑠華がわしゃわしゃと両手ですると嫌そうに離れていった。ちぇっ。
「ルカさんて凄く強いのは分かるんですけど、武器の使い方がおかしい気がします」
「ふふん、よく言われる」
「何故胸を張るんだ?言った奴等は誰一人褒めてないぞ?」
ふふん、僕には褒め言葉さ!
「俺ユニコーン、初めて見ました。書物で読んだ通り綺麗なんですね」
シンが強引に話を変えた。短期間でスルースキルが上達したようだ。
「見たことがある人の方が少ないよ。僕はこれで三度目だけどね。でもどうしようかな?食べる?」
「えぇ⁉食べるんですか⁉」
「いや、冗談だ」
「…………………」
シンが半眼で見つめてきた。ほほほ。
「シンはあの話を信じてるのか?」
「ユニコーンの肉を食べると呪われて心が狂うって話ですか?う~ん、半信半疑ですけど態々試したくはないですね。ルカさんは信じてないんですよね?」
「ないね。だって只の迷信だからね、それ」
魔物の肉は結構食べられないものが多い。毒を持っている、食用にならない、不味いなど理由は様々だけど。
「どうして断言できるんですか?」
「ユニコーンの肉を食べてなんともなかった男を知っているから。尤も彼奴の場合、元々がイっちゃってる奴だったから呪われて心が狂ってても分からなかっただけかもしれないけどね」
「………………ルカさんはいろんなお知り合いの方がいるんですね」
なんだ、その哀れみの表情は。
「というかその話は迷信というより流言らしいからね」
「そうなんですか?」
「ああ、今は無くなってしまった宗教ではユニコーン種は本気で神の使徒だと信じられ崇められてたらしいから、食べる以前に傷付けるなんて有り得なかった。ユニコーン種を守る為に、殺して肉を食べると神に呪われると広めた。
けれど二度目の邪神が現れユニコーンに人や街を襲わせた。それを見た人達は、何が神の使徒だ!ってなってユニコーン種を魔物と認識した、と。
その後邪神によって世界が混沌に呑まれてしまったが故に、“ユニコーンを食べると呪われて心が狂う”という情報だけが後世に伝わった、というのが最も有力かな」
「へぇ、ルカさんて物知りなんですね」
このように邪神の願いによって失われてしまったものは多く、ほとんど蘇らせることはできていない。
「ところでここってもしかしなくてもボス部屋だよね?ってことは三十階層か」
「でしょうね。前にも後ろにも扉がありますから。随分落ちましたね」
本当に。三階層分ぶち抜いたってことだもんね。そりゃ、長く感じるか。
「主よ、今日もここで休むのか?」
瑠華とシンの話が一段落ついたのを見計らい、テトが問いかける。
「ああ、そのつもりだよ。ここが一番安全だからね」
アイテムボックスからマジックテントを出し、出口の扉の横に準備する。
今日はテントの外でテトとリトも一緒に食事をする。
三十階層のボス部屋は、他の部屋と違い少し蒸し暑いくらいで比較的過ごしやすい。
食事をするくらいなら大丈夫だろう。
地面に大きな布を敷き、全員でその上に円になって座る。
アイテムボックスから料理を大量に出して並べる
「………………」
「どうしたの、主?」
料理を食べながら黙って考え事をしていたら、瑠華があぐらをかいた足の間に座っていたマリアが問いかける。
「う~ん…………ここまでのボスが弱すぎる気がするんだよね。SランクというよりAランクかな」
「ルカさんが強いからそう感じるんじゃないんですか?」
「買い被りだよ、シン。さっきのセラフユニコーンだったんだけど、レベルが86だったんだよ。ユニコーン種の最上位なら120以上が当然だね」
「成る程」
フム、ここまでのダンジョンを顧みても魔物の量と質、ダンジョン内の“魔素”の感じだとSランクで納得出来るんだけど。
「もしかしたらダンジョンの成長に“魔素”を使いすぎて、ボスまでいかなかったとかかな」
う~ん…………
「悩んでも仕方ないだろ。先へ進むしかない」
「それもそうだね」
テトの言葉に一つ頷き食事を済ます。
この先の道に分からない不安を抱えたまま。
読んでいただいてありがとうございました。
少し中途半端ですが、ここで切ります。




