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50・一九階層

 一八階層の扉をくぐり、階段を下りていく。階段は大人一人分程の大きさしかないので、一列になって進む。

 一番前をテト、瑠華、シン、リトと続く。


 「ルカさん、本当にいいんですか?このローブそのまま俺が着てて」

 「うん、いい。またあんな場所があるかもしれないしこれも修行だと思えば、ね。それにその姿は見ていてこっけ………和むんだ」

 「………今、滑稽って言いかけましたか?」


 シンに渡した〔穏やかな風〕のローブは、そのままシンに着させている。

 また一八階層のような場所がこの先ありそうだし、いちいち脱ぐのが面倒くさいし。

 ちょっと汗が流れるのが鬱陶しいけれど。


 それにシンの見た目が良い感じになっている。


 ヤカサルの村を出る前にシンに渡した〔死神の衣〕は、元々ローブとしてはふわりとした生地を使っているので見た目が厚ぼったく見える。

 ただ生地がふわりとしているだけで、通気性は良く普通の環境なら熱さはあまり感じない。


 〔穏やかな風〕はローブとしてはかなり薄い生地で作られているので、〔死神の衣〕の下に着たら違和感がないんじゃないかと思って着てもらったら……………



 あら、不思議。何故か〔死神の衣〕が更にふんわりに見え、見た目が丸っこくなった。

 パッと見、ころころぽっちゃりに見える。


 その姿は可愛くて和むのだが、妙に笑いを誘ってしまう。


 でも付与効果はしっかり働いているので、着ていてもらっている。


 シンの姿が目に入る度、口角が緩んでしまうのはご愛敬(あいきょう)ということで。


 ちなみにマリアとムツキは今、リトの背に乗っている。シンがイヤというわけではなく、瑠華以外がイヤらしい。





 「おぉ」


 少し先を行っていたテトが声を上げたので見ると、前方に視線を向けると気持ちの良いが流れてきた。




 一九階層には見渡す限りの草原が広がっていた。

 障害物などなく、本当に草原のみ。


 ダンジョンはこういう場だと分かってはいたけれど、一八階層との差にちょっと驚いてしまう。シンも困惑したようにきょろきょろと視線を動かしていた。


 「ダンジョンがこういう場所だって書物で読んだことありますけど、実際に見ると驚きますね」

 「まあ、ダンジョンは“考えても無駄”な場所だからねぇ」

 「あはは、確かに」






 ダンジョンの歴史はかなり深いて古い。

 初めて発見されたのは千年以上前になる。ただし最初に発見されたダンジョンは今は存在していない。

 何故消滅したのかは明確な理由は分からないらしいが、邪神の破壊行動による消滅ではないか、というのが最も有力な理由だ。


 ダンジョンが発見されてから、解明しようとする研究家が現れた。その者達は騎士や戦いを生業とする者と共にダンジョンに潜って研究していたらしい。


 その研究家の中で、今尚語り継がれる人物がいる。


 リスニー・ラモンティック


 ギルド関係者、冒険者なら誰でも知っている伝説的な人物である。

 彼は五十年に渡りダンジョンを研究していた逸材で、ダンジョンについての書物も多く出している。

 ダンジョンに行く際、彼の書物を読み知識を得てから行くのが常識になっている。


 書物の中に書かれているが、彼はダンジョンを調べる為に自ら剣を取り魔物と戦い続けてSSランクにまで上り詰めた。


 その事実も彼が伝説として語り継がれる由縁でもある。


 彼は六十五でダンジョン研究家を引退したが、それに伴い一冊の書物を世に出した。


 「生涯をかけて」



 なんというか重い題名だが、中身は彼が五十年で得た全ての知識が詰まっている。


 その書の最後にこう書かれている。



 “ダンジョンについて私が生涯をかけて至った結論は、“考えても無駄”である”




 なんとも見も蓋もないというか、ある意味悲しい結論だと言える。


 この書物が世に出されてから、ダンジョンを研究しようとする者は激減した。

 激減しただけでいなくなったわけではない。


 今でもダンジョンを研究している者もいて、その者達は周りからは変人と呼ばれている。


 ただその意味は侮蔑だけではない。

 リスニー・ラモンティックのようにダンジョン研究にその身を捧げているということで、敬意も込められていたりする。

 といっても変わり者に見られていることは変わらないが。


 瑠華も【カイン】の頃にダンジョン研究家と一緒に、ダンジョンに潜ったことがある。

 カインは彼等に対して思うことはなかったので普通に接していたが、その人物はかなりの変人だった。

 若干、イっちゃってる人だったのである。できれば二度と会いたくないような人物。



 閑話休題




 「敵が丸見えですね。兎種ばかりいる」

 「こちらも丸見えだけどね」


 魔物からもこちらが見えているので、一斉に気付かれ向かってきている。

 かなりの数だ。そのことにタメ息が出てしまう。


 「さぁてテト、行きますか!」

 「ああ」


 テトと共に草原を駆け魔物を倒していく。少し離れてリトとシンがついてくる。


 敵は大したことはないけれど、草原の終わりが見えず心からうんざりしてしまう。


 さっさと抜けて二十階層に行こう。







 



 

読んでいただいてありがとうございました。

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