25・ちょっとキレていい?
話が途切れず長くなってしまいました。
ではどうぞ。
暫くの間、何の音もしなかった。
これでは埒があかないのでもう一度、今度は強めにアミーナに声をかける。
「あの!この依頼の受理をお願いしたいんですけど!」
「っっ⁉は、はい!」
漸くアミーナが起動した。急いで三つの依頼の受理をする。
その時になって周りも動き始め騒がしくなる。
「てめぇ、俺の仲間に何しやがる!?」
また横から大声を張り上げて近づいてくる男がいる。
アミーナさん、急いで‼と念を込めて無表情で見下ろしていると、念に気付いたのか、それともただ恐ろしいだけかチラチラと瑠華を見ながら作業している。
「聞いてんのか‼」
とうとうすぐ近くまで来た男は、しかし掴みかからず怒鳴り散らすばかりだ。先程の男の二の前を踏まないためか。
「はい‼手続き終了しました‼どうぞ‼」
やっと処理が終わりアミーナからギルドカードを受け取る。そしてギルドカードを左手の指の先から少し出るように持ち、くるりと身体を半回転させる。
その時ギルドカードを持つ手を上に上げ真横に振る。男の目を狙って。
そう、ギルドカードで男の顔の目の部分を横に一閃したのだ。
「ぎゃああああああああああ‼」
目から血が吹き出し、男の顔も覆った手も真っ赤に染め上げていく。
この世界には欠損を治す魔法はない。どんなに魔力があってもどんなに高度な回復魔法を使っても無くなってしまったモノは復元できない。
例えば腕や足を斬り飛ばされたとして、直後ならくっ付けることは可能だろう。切り離されただけならば。
ただし、どちらかが潰れていたら不可能になる。
この場合も後者になる可能性が高い。
魔法や呪いの状態異常の“失明”なら解呪魔法で癒せる。先天的な盲目は無理だけれど。
武器や魔法で眼球自体に傷を負った場合は、傷の程度によっては癒せるだろう。欠損になってしまったら癒せないけれど。
男の場合は微妙なところか。
瑠華は綺麗に横一閃に切った。やったのは剣のような鋭い刃ではなくギルドカード。傷は浅く少々綺麗というところか。
神経を傷つけていなければ回復魔法でまた瞳は光を映すようになるだろう。
瑠華は男を振り返ることなくギルドを出る。彼は一人目の男から一瞥たりともしなかった。
ギルドを出て大通りに戻る。
昼に近づいている為、屋台も開き始める。どの屋台からもいい匂いがして迷ってしまうがとりあえず一番近くの、肉の焼く音と匂いが堪らない屋台に近づく。
「いらっしゃい」
「おじさん、それ何の肉?」
「一角兎とボアだよ。それぞれ一本鉄貨五枚だ。買ってくかい?」
「じゃあ、五本ずつ」
「あいよ、ちょっと待ってな!」
おじさんが肉を焼く姿を見ながら、アイテムボックスから銅貨を五枚取り出す。
あっ、一応確認の為に――――
鉄貨=100円
銅貨=1000円
銀貨=10000円
金貨=100000円
白金貨=10000000円
黒金貨=100000000円
という感じだったな。うん、大丈夫。忘れてない。
ちなみに白金貨が金貨の100倍なのは、五百年前まで間に青金貨があったのだが素材の青鉱石が採れていた山が邪神により吹き飛び無くなってしまったらしい。
そのせいで青金貨が作れなくなり、そのまま金貨も白金貨も変わらず今まで使われてきた。
以上、豆知識でした。
「はいよ、お待ち!」
「どうも」
串に刺さった焼き肉が十本入った紙袋を受け取り、他の屋台に行く。サンドイッチや飲み物を適当に買い込み大通りの先、街の中心の広場に出る。端の目立たないベンチに腰掛け一息吐く。
マリアとムツキがフードから出てきてベンチの上にお座りする。早く早くと、せがむようにムツキがもふっとしたちっちゃい前足で瑠華の太股をタシタシ叩き、マリアは長い尻尾がベンチをペシペシ叩いていた。
「今あげるから」
緩んでしまう口をそのままに、紙の上に串から外した肉を置けば二頭は肉を手で持ち小さな口でモニョモニョ食べだした。
二頭の姿に癒されつつ、先程の冒険者ギルドでの出来事を思い返す。
やはりマリアにフードの中に入ってもらっていて正解だったな。やっぱり絡まれた。しかもよく分からない理由で。でも一度あったんだからもうないよな?ない、よな?………………………………さて、依頼はなんだっけ?
サンドイッチを頬張りながらギルドカードを見る。
依頼遂行中
Gランク リンカ草 十本 通常依頼 報酬銅貨一枚 ポイント2
リンカ草を十本納品してください。十本以上あった場合、十本で銅貨一枚、ポイント1ずつ上乗せします。
この依頼は常時受け付けております。
Gランク ゴブリン 五体 通常依頼 報酬銅貨三枚 ポイント3
ゴブリンを五体討伐してください。討伐証明部位の耳をギルドにお持ちください。五体以上の場合、二体で銅貨一枚、ポイント1ずつ上乗せします。
この依頼は常時受け付けております。
Gランク 荷運び 通常依頼 報酬銅貨五枚 ポイント10
荷運びの依頼です。東門外の坑道から五百キロの鉄屑を運んでください。五百キロ以上運んだら報酬を受け取れます。それ以上運んでも報酬は変わりませんので気をつけて下さい。
この依頼は五日おきに出されます。
ポイント低‼Fに上がるのに300必要なのに。流石Gランクの依頼……………リンカ草とゴブリンはいいな。ズルいかもだけど、既に腐るほど持ってるからね!
荷運びかぁ、アイテムボックス使えばこれもすぐに終わるな。
先に宿を取ってから依頼を終わらせて、街の図書館に行ってみよう。確かこの街にはあったはず。
ギルドの資料部屋は諦めた方がいいだろうな。ギルマスとか出てきて文句言われそうだし。
よし、と今日の予定を決めて食事を済ませようとサンドイッチに手を伸ばすが、空中で止まる。
見れば膝の上には肉もサンドイッチもなかった。どうやら瑠華が考えてる内にマリアとムツキが全てたいらげてしまったようだ。器用に串から肉を外して。
「僕、まだ肉食べてないんだけど………………」
じとっと二頭を見れば、マリアもムツキも逃げるようにフードの中に入ってしまった。
というかテトにやってない……………夕食は多目にあげよう。
「まったく…………」
タメ息をついてゴミを片付ける。サンドイッチを少し食べたのでいいかと宿屋がある西区画の方に歩き出す。
宿屋はすぐに見つかった。風呂付きを選んだので一泊銀貨五枚する少し高級な宿になってしまったけれど。
やっぱり一日の終わりには風呂に入ってまったりしたいからな。
宿屋が決まり、東門外の坑道に行く。そこには炭鉱マンのような筋肉ムキムキの男達がいて声を張り上げていた。
坑道入り口の近くには鉄屑の山が沢山あった。一番近くにいた男に話しかけてみる。
「すみません、荷運びの依頼で来た者ですが」
「……………あぁ?」
男は怪訝そうに眉を寄せる。
「あんたが運ぶのかい?」
「そうですけど何か?」
「…………そうかい。親方呼んでくるからちょっと待っててくれ」
男は坑道の中に入り少しして初老の男性を連れてきた。その男は瑠華を見てやはり怪訝そうな顔をする。
「荷運びの依頼を受けた奴だと聞いたんだが」
「ええ、僕です」
「あんた大丈夫かい?五百キロだぞ?まぁ、数回に分けて運べば出来るかもしれないが」
男の言いたいことは分かるが、ちょっぴり頭にくるな。
「僕は魔法袋を持ってますので」
「へぇ、随分珍しいもの持ってるんだな」
あまり言いたくないことだけれど、話が進まないので仕方ない。
アイテムボックスではなく、魔法袋にしたのはアイテムボックスは貴重すぎて持っているだけで厄介事を招いてしまう。その点魔法袋なら、上級冒険者がよく持っているから怪しまれないだろう。
ローブに隠れてると思われるし。
尤も、アイテムボックスを使わなくても五百キロなら一度に運べるくらいの力はあるけどね?
ただそちらの方が異様な光景になりそうなのでアイテムボックスに入れて運ぶ。
「魔法袋を持ってんならもっと持ってってくれないか?勿論、その分報酬は上乗せする」
「依頼書には報酬は変わらないと書いてありますが?」
「最近この依頼を受ける奴がいなくてな、鉄屑が溜まってんだよ。あっちの責任者には俺の名前を出せばいい」
あっちというのは鉄屑を運びいれる先のことか。特に問題もないしやるか。
「分かりました」
「お、やってくれんのかい!ありがとうよ。あそこにあるやつを持ってってくれ。ああ、それと俺の名前はドンガだ。じゃあ、よろしくな」
そう言って筋肉ムキムキおじさん、ドンガは坑道に戻っていった。名前がぴったりだと思うのは偏見だろうか?
ドンガが示した場所には三トン程の鉄屑があった。それを全てアイテムボックスに入れ街に戻る。
依頼書に書かれている鍛冶屋に行くと、ここにも筋肉ムキムキおじさん達が汗を流して仕事をしていた。ドワーフもちらほら見える。
暑苦しいので入りたくないなと躊躇していると、中から細身の青年が出てきたので声をかける。
「すみません、依頼を受けて鉄屑を持ってきたんですが何処に置けばいいですか?」
「あっ、それならこちらに――――ってどこにあるんですか?」
「魔法袋に入ってます」
「成る程、ではこちらにお願いします」
言われた場所に全て出す。
「随分ありますね」
「ドンガさんに持ってってくれと頼まれたんです。こちらの責任者に言えば報酬も上乗せしてもらえると」
「ああ、そうでしたか。私がここの責任者です。今依頼完了の紙を持ってきますので少々お待ち下さい」
おや、意外なことに彼が責任者だった。てっきりドンガと同じタイプの人物かと。
外に出て待っているとすぐに帰ってきた。
「お待たせしました。こちらが依頼完了の紙になります。報酬も上乗せするように書いておきましたので」
「確かに。では」
依頼完了の紙を確認し鍛冶屋をあとにする。
記憶を頼りに図書館を探すと、やはり記憶通りに街の北側の端にあった。図書館に入って入館料の銅貨一枚を払い本を探す。
この二年間の歴史書で何かあったか、魔物図鑑、地図などで記憶との相違はあるか調べる。
リーンゴーン
外からの鐘の音が耳朶を打ち、集中が途切れる。
この世界では朝昼夕方に鐘が鳴る。時計などは数が少なく高級品なので、王族貴族や大商人くらいしか持っていない。
その為一般的に三回の鐘で時間を知らせる。
先程のは夕方の鐘だ。
図書館が閉館の準備に入っているし、冒険者ギルドにも依頼完了の報告に行かなければ。鐘が鳴る前に切り上げようとしていたのに、つい集中しすぎてしまったようだ。
集中しすぎると時間を忘れる癖は、【カイン】の時からなかなか治らなかった。
気をつけないとね。
ふぅと眼鏡を上げつつ息を吐いて机の一角を見る。調べものをしている間、机の上で折り重なって丸まって寝ていたマリアとムツキを起こしてフードに入れ、図書館を出る。
冒険者ギルドは今の時間は、依頼を終えて帰ってき始める頃なので急いでギルドを目指す。
ギルドに到着し中に入れば、それなりの人数がいた。朝と同じ左端の受付嬢、アミーナのところが比較的に並んでいる人が少なかったのでそこに並ぶ。
十分程で番がきたのでギルドカードと依頼完了書、リンカ草十本、ゴブリンの耳五個を出す。アミーナは瑠華に気づくとひきつった笑みで対応した。
「お疲れ様でした。只今、確認しますので少々お待ち下さいませ」
明らかに怯えて早く済まそうとしている姿に苦笑が漏れる。何か言うと怖がられそうので黙って待っている。
ギルマス、出てきたらどうしよう……………
なんて考えていたら、真後ろから不機嫌を隠さない甲高い声が聞こえた。
「ちょっとぉ、早くしなさいよねぇ!こっちは疲れてんだからさぁ!」
僕に言ってるのか、受付嬢に言ってるのか。
もし僕だったらちょっとキレてもいいかな?
門番の兵士、朝のギルドの男二人、そして今。こうも立て続けに不愉快なことがあると、流石の温厚な僕でもキレるよ?
ダメだって言われてもやっちゃうけどね♪
読んでいただいてありがとうございました。




