第三章 23 リムルうううぅぅぅ
気がついた時には、すでにそこはオカルト研究部の部室だった。キウイたちの世界に送られた時とまったく同じ位置である。
「……ん? おぉ、おかえり君たちぃ」
「……何してるの?」
瑠兎は、二人の目の前の床に座り込んで、お菓子とジュースを飲み食いしながら漫画を読んでいた。
「……何ってぇ、君たちを待っていたんだよぉ。こうしておやつと漫画本を堪能しながらねぇ」
「ああ、そう」
瑠兎は漫画本を閉じると、スカートのお尻の部分をはたきながら立ち上がった。
「……それにしても早かったねぇ。まだ三十分しか経っていないよぉ」
どうやらあちらで過ごした時間は、こちらの三十分でしかないようである。
「何で三十分しか経っていないんですか?」
紘があたしを含め、誰もが訊きたいであろう質問を瑠兎に放った。
「……それについてはぁ、説明に同じく三十分くらいかかるけどいいかいぃ?」
「あ、それなら結構です(ご都合主義ということにしておこう)」
「あ、じゃあ結構だわ(そんな尺は残ってないのよね)」
「……何だよぉ、つれないなぁ」
瑠兎は、いつも通りの妖しさを残しつつも、しょぼぼんとしてしまう。
「……まあいいやぁ。それよりもぉ、魔力のチャージお疲れ様ぁ」
瑠兎はそう言うと、紘の手から魔術書を抜き取った。それから続けて言う。
「……うぅん、良い魔力だぁ。では早速ぅ、君の性転換を試みてもいいかなぁ?」
「はい。よろしくお願いします」
迷いのない紘の返事に、瑠兎は了承したように頷くと、言葉通り早速その魔術書を開いた。
「……ええ、『この者、種神紘は、ちょっと良くないことに悩まされている者である。書よ、この者の不都合を取り除いてくれなきゃ許さないんだから。おー願い』」
「呪文ひどすぎぃ!」
絶対この魔術書の作者、その場のノリでこれ考えたでしょ。
瑠兎が真顔でその呪文を詠唱すると、次の瞬間、紘の体がいきなり虹色に輝き始めた。
「……おぉ、どうやら上手くいきそうだよぉ」
魔術に詳しい瑠兎が、虹色の紘を見てそう言った。人型の七色の光は次第に強さを増していき、すぐに直視できないほどに眩くなる。
「……総員、対閃光用意ぃ」
「ああ! あたしの目がああああぁぁぁぁ!? 目があああああぁぁぁぁぁ!!」
そう言いつつも、乃子はしっかりと目を閉じて上からその目を手で覆い、そして用意周到に顔を背けていた。
「――あ、あっ、ああん! ああっ!」
見えてはいないが、紘の嬌声が聞こえてくる。まるで絶頂する前の、喘ぎ声のような感じである。紘といっても、声はしっかり女の子なので、かなりエロい。い、一体何が!?
「ああああ、ああああああ――ああああああぁぁぁぁぁぁ――――――っ!!」
「途中で男の声になったあああぁぁぁ!!」
「……よしよしぃ、上手くいったみたいだねぇ。総員、ゆっくりと開眼せよぉ」
目を開けた乃子の視界に飛び込んできたのは、徐々に弱くなっていく人型の虹色の光だった。
七色の光が完全に消えると、そこには男に戻り、ちゃんと男子の制服を着た紘の姿があった。全ての変化がなかったことにされるのであろうその魔術は、悪魔リムルが起こした髪型の変化だったり、制服の変化だったりというものも全てリセットしていた。
紘は自身の両手を眺めながら、男に戻った第一声として、
「お、男と女の真理を、僕はそこに見た気がする……」
と、なぜかまずそう呟いた。
「何があったああああぁぁぁぁ!? さっきの瞬間にいいいいぃぃぃぃ!!」
果たして紘は何を見てしまったのだろうか。しかし、それは彼にしか分からない……。
「まあ何にせよ、男に戻れて良かったよ。これで僕は、また男としてライトノベルを読むことができる」
これにて一件落着。……となるはずなのだが、何か違和感を覚える。
何か忘れているような。何か引っかかるような。少し考えたのちに、その正体に気づいた。
「あれ? ていうか、リムルは?」
違和感の正体。乃子はリムルがその場にいないことに気がついた。
「確か、一度強制的に紘の外へ出ちゃうんじゃなかったっけ? 魔術書の力で」
「そうだった! おーいリムル!」
けれども、彼女からの返事はなかった。
「いない!? だったらやっぱり中に……、…………。いない。返事がない!」
リムルが、消えてしまった。
「ああ、リムル……! リムルううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅ――――――――っ!!」
「……リムルってあの子のことかいぃ?」
「…………へっ?」
突然のその瑠兎の言葉に、紘は間の抜けた声を発してしまう。
紘が瑠兎の指差す先、オカルト研究部部室の扉の方へ振り向く。すると、そこには――。
扉に後頭部を激突させ、M字開脚で目を回しているリムルの姿があった。




