第三章 22 ミッション達成
「ぐ、ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
――乃子は左脇腹を、まず蛇腹剣の先端によって貫かれ、そして傷口を広げるかのようにギザギザ刃で横に鋭く切り裂かれた。蛇腹剣の前半部分は杖で構成されているが、その杖の先端は鋭く尖っているため、針のように貫くことが可能なのである。
地面に膝こそつかなかったものの、そのあまりの激痛に乃子は思わず足を止めてしまう。
(痛い痛い痛い痛い!! いったあああああああいっ!!)
『あーあ、調子に乗ってギャグ補正を解除するからそうなるんですよー』
(乙女の柔肌があああぁぁ! 傷物にいいいぃぃ! お嫁にいけないいいぃぃぃ!)
『なーにが「真剣勝負にギャグ補正は無粋」ですか。そんなカッコつけしなければ、こんなことにはならなかったのにー。いやぁ、痛そうですねぇ』
(……冥狐しゃま……お願いします、……治してください)
『はーい了解でーす』
乃子は権限を行使し、傷物にされた左脇腹の再生を行う。もはやあたしにプライドなんてものはなく、マリンには申し訳ないがチートをちぃっと使わせてもらおう。
権限が発動して再生が開始されると、乃子の左脇腹が白く光り始めた。マリンは突然起こったその不可解な現象に一瞬眉をひそめたが、追撃のためにすぐさま蛇腹剣を振りかぶった。
「――いつまでやってるんだよー」
その声が聞こえたのは、マリンが蛇腹剣を振りかぶったのと同時だった。
ガシュッ!! と何かが切り裂かれる音が聞こえた。
マリンの背後に、いつの間にかメロンが立っていた。
マリンの首筋から、鮮血が飛び散った。
メロンが黒い直剣を握った右腕を、横に大きく伸ばしていた。
「あ……?」
マリンは呆けたような声を一言だけ発し、それから糸が切れた人形のように、くたりと地面に崩れ落ちた。首筋から溢れ出た鮮血が、地面に真っ赤な血だまりを作っていた。
この一連の出来事。一体何が起きたのか。
簡単に言うならば、メロンがいきなりマリンの背後に現れて、人体の急所であるマリンの首筋を、メロンが愛用の黒い直剣で深々と切り裂いたのである。そして致命傷を負ったマリンは地面に倒れ込み、ぴくりとも動かなくなった。
その光景に、乃子はしばらく呆然としてしまった。
「もー、お礼くらい言ってよー。助けたんだしさー」
メロンの言葉で乃子は我に返り、とりあえず彼女に感謝の言葉を送る。
「……あ、うん。ありがとう」
それから少しして、相手側の魔術師四人は全員倒されることになる。
こちらは乃子と紘はもちろん、メロンとキウイも含め全員が無事であった。
これにて報復への応戦は、特に何事もなく終了することとなった――。
その後、乃子たち四人はアジトに帰還する。
「お二人とも、ありがとうございました。これにてお手伝いは完了です」
乃子の正面に座るキウイがまず感謝の言葉を述べた。現在四人は、一室の中央にあるソファーに腰掛けている。昨日メロンが倒れ込むように寝転んだ、あのソファーである。
「まったくの素人だったけど、あたしたちはお役にたてたかしら?」
乃子の問いに、キウイは口元を緩ませて微笑みながら言葉を返す。
「それはもう十分過ぎるくらいに。とても助かりました」
「正直時間稼ぎくらいにしかならないと思ってたけどねー」
キウイの言葉に続けるように、メロンが口を開いた。
「意外とやるもんだから驚いたよー」
「それはもちろん、メインヒロインと主人公だからね。モブとは違うのよモブとは」
乃子のその言葉によって、その場は愉快そうな雰囲気に包まれた。
「あはは、そうかもねー」
「ええ、本当に、まさに主人公のような活躍ぶりでした」
メロンとキウイがおかしそうにそう言う。先ほどのあたしの言葉に、真の意味があることに気づける人物は、残念ながら紘を含めて誰もいない。だが、これでいいのだ。
これはキャラ役者であるあたしの、ちょっとしたお遊びみたいなものなのだから。
――しばらく他愛もない話を彼女たちとしたのちに。
ついに紘が、この世界に来た目的を果たすための話を切り出す。
「それではキウイさん、チャージをよろしくお願いします」
そう言って紘は、キウイに対して瑠兎から預かった魔術書を差し出した。
「はい。分かりました」
キウイは返事をして、紘から魔術書を受け取る。
「これでお別れなのですね。……少し寂しい気もしますが」
「あたしもです。でも、仕方ありません」
「僕もです。けれど、この出会いは一生忘れません」
「ふふふ、私も一生忘れないと思います」
「メロンー、メロンもねー」
四人は最後にそれぞれの顔を見合わせる。決してその顔を、忘れないために。
そしてキウイが、魔術書に魔力を注ぎ込んだ。チャージが完了すると、魔術書の表紙に書かれている文字が一瞬だけ淡く輝く。キウイはそれを見ると、紘に魔術書を返した。
ミッションを達成すると、即座に乃子と紘の足元と頭上に、薄青く輝く魔法陣が出現した。瑠兎が言っていた、元の世界への帰還用の術式である。
「さようなら。乃子さん、紘さん」
「さよならー」
キウイとメロンの最後の言葉。
「さようなら、二人とも」
「さようなら。キウイさん、メロンさん」
乃子と紘の最後の言葉。
乃子と紘の足元と頭上に現れた一対の魔法陣が、二人を挟み込むような動きをする。魔法陣の移動とともに元の世界への転移が始まり、二枚の魔法陣が交わると同時に、乃子と紘は完全に元の世界へと送られた。




