表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/64

第三章 1 これこそイレギュラー



 第三章



「確かに、顔つきが違いますわね」

 対面の席に座る紘の顔を見ながら、レミアが納得したようにそう言った。

 あのあと、紘以外が担当した悪魔は、各員によって全て退治された。しかし、紘が担当していた悪魔がどうなったかについては、彼はその場で詳細を語ろうとはしなかった。

 まあ、語れないことがあった、なんてシリアスな展開になったわけじゃなくて、ただ単に立ち話もあれだったからだけなんだけどね。

 そんなこんなであたしたちは、再び秘密基地に戻ってきて、紘の話を聞くためにテーブルについているのだった。

「で? 何がどうなってこうなったのか説明してくれない?」

 乃子が女になった紘の横顔を眺めながら、話を催促するように言った。紘は女の子の声で可愛らしく咳払いをすると、みんなに向かって話し始めた。

「それについてなんだが……。あー、まだ自分の声に違和感があるな……。まあいい」

 紘は椅子に座る姿勢を変えると、話を続けた。

「僕は悪魔をある程度まで弱体化し、とどめをさそうと近づいた。ボードを降りて、彼女のそばまで近づいたんだ」

 まるでというか、思いっきり自分のロリ悪魔との、屋上での出来事と同じ流れだった。

「その時に、彼女がいきなり僕の方に飛びかかってきたんだ。どこにそんな力を残していたのか分からないくらい、本当に素早く急にね。そして彼女が眼前に迫った次の瞬間、僕は意識を失った」

 一呼吸置いてから、紘は言った。

「――そうして意識が戻ると、僕は突然女になっていたというわけさ」

 紘の話が終わると、案の定基地の中に沈黙が舞い降りた。何を話していいか見つからないのだろう。

 この隙に時間を止めて、あたしと冥狐は話し合いを開始する。

(何で紘が女の子になってんのよ!?)

『分かりません。権限での設定に間違いはなかったはずですけど』

(じゃあどうしてよ? ミスはないのにどうして?)

 少し前から隠すようにしてきたが、この際言ってしまうとしよう。紘に行なった仕掛けについてだ。

 あたしが紘に対して事前に仕掛けたのは、紘に悪魔が憑りついてしまうといったものだった。詳しく言うと、彼の射撃によってダメージを負った悪魔が、起死回生の一手として紘の体の中に逃げ込み、そしてそこに留まり続けてしまうというものである。

 なぜ紘の体の中に留まり続けるかというと、彼の体の中が素晴らしく心地よいからだ。悪魔は基本自分勝手に生き、自分が良ければ全て良いという性格なため、紘の体という一級リゾートを見つけてしまったら、絶対に離れようとしない。そういう設定にしたため、悪魔は紘の体から離れようとしないのである。

 そうして紘と、絶対に離れてくれない美少女悪魔とのコメディ(さらなる不幸にてんやわんやするような感じ)を、これから展開していこうとしていたのだが……。どうしてこうなってしまったのか。

 ちなみに、この時点でシューターによる退治方法は効かないように悪魔に設定してあるので、紘にカレピヌを浴びせて引き剥がす――なんてことはできない。

 まあそんな感じのことを、事前に紘に仕掛けていたというわけなのよ。

 分かってくれたかしら。

『……もしかして』

 冥狐が人差し指をピンと立てて、何かに気づいたかのようにそう呟いた。

(何か分かったの? なになになになに?)

『お、落ち着いてくださいよ乃子さん。……もしかしてですけど、……イレギュラーじゃないですかね? もしかしてですけど」

(……イレギュラー?)

『そうです、イレギュラー。この頃とんと起きていなくて、私たちも完全に忘れかけていたイレギュラー君ですよ。その彼が、ここにきて急に仕事をしたんじゃないかと』

(………………)

『あれ? 乃子たん? どうしたんです?』

(……イイイイレレレレギュウウウゥゥララララァァァァ!?)

『!? 何語!? と、とにかくそうです。イレギュラーに間違いありません』

 それがあったか。

 イレギュラー。英語で「不規則な」、「変則的な」の意味を持つ単語。

 確かに、イレギュラーが最後に起きたのはいつだったか。おそらく、レミアの食べたクッキーが口の中で爆発した時ではなかろうか。

 それ以来、一度もイレギュラーは起きていない。言われてみれば、一度もイレギュラーは起きていなかった。職務怠慢か、それとも展開という空気を読んだのか、いずれにせよあれから一度もイレギュラーは起きていないことは確かだった。

 起きていないことは、頭から薄れていってしまうものだ。それは、長らく使うことのなかった数学の公式を忘れてしまうことによく似ている。もしくは、何年に何の出来事があったという、歴史のことを忘れてしまうことにも。

 まさかそれが、こんな伏線みたいなことになるなんてね。いやー、あたしもさすがに気づけなかったわ、そんなことには。

(まあ冥狐の言う通り、間違いなくイレギュラーでしょうね)

『これからどうするんですか? 予定が変わっちゃいましたけど』

(んー、そうねぇ……)

 権限でいくらでも軌道修正すればいいじゃないかと思うかもしれないが、実はそれはできないのである。権限でイレギュラーをなかったことにしたり、塗り替えたりすることは、この世界のルール上不可能だからだ。

 これは、以前の顔面黒板消しの事例ですでに判明済みである。イレギュラーで顔面にくっついた黒板消しを権限で外そうとしたが、残念ながらできなかった例のあれだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ