第三章 2 ノリと勢いだけの物語だし
つまり今回の、紘が女の子になってしまったというイレギュラーも、イレギュラーであることには変わりないので、権限でどうにかすることはできないということである。
(紘と悪魔の状況が変わっただけで、展開的には何の問題もないからこのままでいいと思うわ。そもそもこの先の展開も漠然としか考えていなかったし、今の状況に合わせて考え直していけばいいんじゃないかしら)
『乃子さんがそれでいいなら、別に構いませんよ。展開を作っていくのは乃子っちですし』
(ま、つまりは今までみたいに流れで行くってことなのよね、それは。これまで何か考えてやってきたように見えて、その実は何も考えていない、ノリと勢いだけの物語だしね、これは)
『あはは、そうですね』
(さて、じゃあもう少し頑張りましょうか)
『はい。最後まで』
冥狐との話し合いを終え、時の流れが緩やかに戻っていく。止まっていた全員に、再び動きが付き始めた。
そんじゃ、仕事を再開するとしますか。
乃子はテーブルの上に意識を戻す。基地の中は、冥狐と話し合いをする前と同じままの状態で、相変わらず沈黙が降りたままの状態だった。
「……そうだ」
乃子は紘に訊かなければいけないことを思い出し、ふとそう声を発した。まだ直接紘の口から聞いていないことだ。それは何かというと、紘の担当していた悪魔がどうなったか、についてである。
「そういえばさ、あんたの担当していた悪魔は結局どうなったのよ? いきなり飛びかかってきたって言ってたけど」
「それが、僕にもよく分からないんだ。意識を取り戻したら、すでにいなくなっていたし」
当初の予定で行っていたとしたら、悪魔は紘の体内に姿を隠しているはずなのだ。イレギュラーが起きた今でも、体の中にいるという設定が生きているとしたら、本当に紘の体内にいる可能性もある。
ちなみに体の中にいる悪魔は、設定的にレーダーには反応しないようになっている。人の中に完全に溶け込んでいるという考えなためだ。
紘、及び他の全員に、悪魔が紘の体内にいるかもしれないことをどう伝えるべきだろうか。ストレートに言っても、「何でそんなことが分かるの?」って不審に思われるだろうし。……うーん。
……………………。
まあいいや! つっこまれたら、それらしい言葉を並べておけば何とかなるでしょ!
それよりも、早く物語を展開させていかないとね!
「……もしかしたら紘、悪魔はあんたの体の中に住み着いているかも」
乃子はストーリーテラーとして、さっさと物語を進行させるために、自分にしか分からないことを平然と言った。
「僕の体の中にだって? 本当なのか?」
「なぜそんなことが分かるんですの? 専門家のわたくしたちですら、まだ見当がついていませんのに」
当然のごとく紘には本当かどうか聞き返され、レミアにはどうしてそれが分かるのか疑問に思われた。だが、まあ想定内だ。そう反応してくるのは目に見えていたし。
「……えーっと、それは……」
しかし、どう返すべきだろうか。それらしい言葉を並べておくとか簡単に言ったが、実際にそうなるとなかなか言葉が出てこない。
「いつもみたいに神の力が~、とか言っておけばいいんじゃないですか?」
それよ! 冥狐愛してる!
「か、神の力で分かったのよ。あたしの神の力で」
神の力があることは、すでに物体召喚などで先例を示していたため、特に疑われることはなかった。
「本当に体の中にいるとしたら、何とかコンタクトを取れませんの?」
レミアがテーブルの上で指を組み合わせながら、提案するようにそう言った。
「例えばどうやって?」
紘が聞き返す。その質問に答えたのは、レミアの隣のそのまた隣に座る夏希だった。
「自分の内側に向かって話しかけてみるとかどうよ? 自分に言い聞かせるみたいにさぁ」
「とりあえずそれでやってみるよ。…………」
紘はそう言うと、目を閉じて押し黙った。
再び基地内に沈黙が舞い降りる。全員の視線が紘に注がれ、彼にリアクションが起きるのをじっと待っていた。そのまましばらく待つ。
「…………ん!?」
すると、紘が驚いたように声を発した。すかさず乃子が尋ねる。
「どうしたのよ? 何かあった?」
「ちょっと待ってくれ……」
そう言って、紘は再び目を閉じて黙り込んだ。もしかして、本当に悪魔からの反応があったのだろうか? これは目が離せないぞぉ!
「……えっと」
少しして、紘が目を開きながら、同時に声を発するように口も開いた。だが、その口からはすぐに続きの言葉が出てこない。何やら言いにくそうにしている。
「? 何か言えないことでもあるの?」
乃子がそう訊くと、紘はすぐさま否定するように首を横に振った。
「いや、そういうわけではないんだが……。……結論から言うと、僕の中に悪魔はいた」
その言葉を聞き、反応はそれぞれ異なっていたが、紘以外の全員が共通して驚いた様子を見せていた。中でも一番大きく驚いていたのは夏希である。それも当然だろう、自身が言った通りの方法でまさか本当に上手くいってしまったのだから。




