第二章 15 十七歳以下は共感できない
優理香と夏希からの了承の返事を聞いたレミアは、乃子と紘の方に向き直って言った。
「それではボードを手に取って」
レミアの指示通り、乃子と紘は立て掛けられていた反重力フライングボードをそれぞれ手に取った。何の素材が使われているか詳しくは分からないが、おそらく少しのことで破損したり故障したりしないように、金属的な何かが使われているのだろう。そのため、予想していたよりもやや重く感じられた。
「起動させる部分は分かるかしら。乗る側の方を上から見た場合の、左側にある部分ですわ。そこにある青い箇所を、スイッチのように強く、カチリと音がするまで押すのです」
レミアは足元にある自身のボードを用いて、今言ったその部分を手で示す。乃子と紘は彼女に言われた通り、ボードを起動するためにその青いスイッチを押した。
ボードが起動し、裏面から目に優しくなさそうなブルーの光が発せられる。乃子は手に持ったボードを先ほどのレミアのように床に落とした。先ほどとまったく同じように、床から十センチほど浮いたところでボードは宙に停止した。
わくわくと怖さが半分ずつほど入り混じった、そんなよくある初体験のような感覚で、乃子はボードの上にまず右足を下ろした。
「うわっ! 何これ!」
地面の感覚が八割で、ふわふわと浮くような感覚が二割といった、そんな感じの奇妙な感覚が右足の裏に伝わってくる。なんか楽しいんだけど、ちょっと怖いような感じもする。
だが女は愛嬌と度胸。意を決して左足を持ち上げ、左足もボードの上に乗せる。すると、完全に安定した床の感触はなくなり、代わりにふわふわとしつつも、しっかりとした地面という奇妙な感覚がより一層強くなるように両足に伝わってきた。
最初はその感覚に慣れず変な感じだったが、次第に慣れてくると、そのふわふわと浮かぶ感覚がとても楽しくなってきた。具体的には言いにくいが、とにかくすごい気持ち良かった。
「ねぇ、これどうやって動かすの? さっきやってたみたいに」
レミアが先ほどやっていたように動かしてみたくなり、乃子は彼女にそう言った。レミアは自身のボードに乗ると、インストラクターのように説明し始める。
「基本としてはこうやって、重心を行きたい方向に傾けるのですわ」
レミアは言いながら、実践するように自身の体を傾けた。彼女の体が傾いた方向に、ボードが合わせるように移動していく。再びボードをその場に停止させると、続けて説明するようにまた口を開いた。
「どのくらい傾けるかで、移動する速度が変わりますわ。傾けるほど速度が速くなりますの。最初は、ほんの少し傾けるくらいにしておきなさい」
速度を限りなく落とし、今度は亀が歩くがごとき超低速でレミアがボードを動かす。
「止まる時は、一度反対方向に重心を傾けて速度を相殺し、それから重心を中心に戻して停止させるのですわ。速度がなくなったと同時に重心を真ん中に戻さないと、反対方向に向かってしまいますから注意してくださいな」
今の説明を、レミアはボードを実際に動かしながら悠々と言ってみせた。意識しなくても、もはや動かせるレベルなのだろう。自転車に乗りながら会話をするような感じに似ていた。
「それじゃあ、あたしも……」
そう言って、乃子は恐る恐る重心を前――今の場合は左半身の方――へ、少しずつ傾けてみる。慎重に慎重に傾けていくと、ある一点を超えた辺りでボードが反応し、そちらの方へじわりと移動し始めた。
「わっ! 動いた!」
スピードはまったく出ていないのに、心臓が跳ね上がるようにドキドキしてしまう。あー何だろう、教習所で初めて車に乗って初めてアクセルを踏んだ時のような、それに似た感じのドキドキ感がするわ。
『中高生を置いてきぼりにするような例えはやめましょうよ、乃子さん。十七歳以下はたぶん全員共感できない例えですよ、それ』
(この物語は、人によっては分かりにくい例えをする場合があります。ご注意ください)
『取ってつけたように言わないでください』
(当てはまっちゃったら……ごめんね?)
――気を取り直して。
そろそろ壁が近づいてきたので、乃子はその場に停止するように体を動かす。一度反対の右半身の方に重心を傾け、速度を相殺し、続いて重心を中心に戻してボードを停止させる。
何とか上手くできたようで、壁にぶつかることなく止まることができた。とりあえず一安心していると、レミアがボードに乗ったままそばに近づいてきて言った。
「広院乃子、あなたなかなか良いセンスしてるわね。一回で止まれるなんて。多くの人は、最初は止まる時にグラグラ揺れるものなのだけれど」
「? 待って」
さすがにまだレミアのように、ボードに乗りながら話したり聞いたりするほどの余裕はないので、乃子は一度ボードから降りる。降りてから続けて言った。
「よく分かんないだけど?」
「ほら、あのような感じですわ」
レミアが言葉とともに、ある方向に指を差した。その指の先を見ると、ボードに乗った紘の姿があった。彼もスーッと宙を滑り、今から止まるようである。
紘が速度を殺すために、進む方向とは逆の方向に重心を傾ける。――が。
「うわっとと!」
重心を逆方向に傾け過ぎたのか、今度は逆方向に戻るようにそちらの方向へ動き出してしまった。再び逆の逆――初めの進行方向に重心を傾けるが、これまた調節が上手くいかず、またも反対方向へ動き出してしまう。




