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第二章 16 才能ある系ヒロイン

 それから何度も前進と後進を繰り返し、しばらくしてようやく紘はボードをその場に停止させることができた。ふぅ、と一つ息をついている。

「分かったかしら? 多くの人は最初、あのような感じなのです」

 レミアがわざとボードを紘のように揺らしながら言った。

「なるほど、そういうことね。まあ、あたしの場合はたまたまよ。うん」

 もう一度ボードを体験するために、再び足を上げてボードに乗ってみる。さすがに二回目になると、それほどドキドキはしない。

「たまたま、ね。……本当かしら?」

 レミアは疑うようにそう言うと、意地の悪いニヤリとした笑みを浮かべた。あ、やばい何かある。いやーな予感、悪い予感がすると思った時には、時すでに遅かった。

 レミアがドンッと、乃子の体を体当りするように押したのである。当然乃子はバランスを崩し、重心が動いてしまう。重心が中心から動いてしまうと、これまた当然ボードも動き出してしまい、乃子は無理矢理空中を滑り始めてしまった。

「ちょ、ちょっと! 何すんのよ!」

 乃子は叫びながらも、すぐに足元に意識を集中させた。今回は結構スピードが出てしまっているので、すぐに止めないとまずい。乃子は先ほどと同じように、ボードを停止させる一連の動きをした。

「危ないじゃない! 何すんのよ!」

 ボードを停止させてから、今度はボードに乗ったままレミアに向かって言った。すると彼女は、乃子を指差しながら楽しそうに言葉を返した。

「やはりたまたま、ではありませんわね? 広院乃子」

「はぁ!? 何よ?」

「今もボードを一発で静止させましたわ。やはり偶然などではなく、あなたにはその才能があるということなのですわ」

 乃子は冷静になって、三十秒ほど前の自分の動作を思い返してみる。あの時は無我夢中で気づかなかったが、思い返してみると確かに今度も一発で止まれていたような気がする。

「才能……ね。つまりこういう、ことでしょ!?]

 乃子は室内で出すにはあまりにも危険すぎる速度でボードを走らせると、レミアの目の前――ぶつかる寸前の所で見せつけるように急停止してみせた。

「そうです、それですわ!」

 レミアが目を輝かせた顔を乃子に近づけて、心から楽しそうに愉快な声を上げた。

「わたくしですら一時間ほど掛かりましたのに! たったの一回で完全に乗りこなしてしまうなんて! こんな愉快なこと他にありませんわ!」

 するとここで、それまで黙って乃子たちを見ていた夏希が、離れた所からレミアの言葉のあとに続けて驚いたように言った。

「アタシなんて一日も掛かったんだぞ!? お前化けもんかよ!? それもレミア以上の!」

「私なんか、三日……」

 夏希の驚愕した言葉のあとに、優理香も消え入りそうな声でぽそっと呟いた。

 乃子は視線を夏希たちからレミアの方に戻すと、努めて冷静にいつものように言った。

「でもまだターンとか、高さを変えるとかいろいろあるでしょう? 一発で止まることができるからって、そこまで驚かれるようなことはないと思うんだけど」

「ターンは上半身をひねるだけですし、上下移動も深く屈んだり伸びたりするだけで、難しさなんて普通に移動する時と大して変わりませんわ。誰がやっても、最初からそれなりにできるものですわ。ですが止まる時だけは、間違いなく慣れかセンスが要求されるのです」

 レミアはボードを使って乃子からやや離れてから、再び話を続けた。

「それは言うなれば、自転車が乗れるようになるのと似ていますわ。多くの人は、大抵最初から自転車に乗ることなどできません。何度もバランスを取る練習をし、慣れることで初めて乗ることができるようになるのです。ボードの止まる動作というのは、それとまったく一緒なのですわ。だからわたくしたちは、あなたのことをすごいと言っているのです」

「た、確かに、それはすごいかもね……」

 あたしも自転車は、それなりに練習した記憶がある。昔のことで、かなりおぼろげだけど。

 レミアが再度乃子のそばまでボードで近づいてきて、目線を乃子と同じ高さに合わせながら彼女を勧誘するように言った。

「広院乃子。あなた、わたくしたちの仲間になる気はないかしら?」

「……それはつまり、一緒に悪魔退治の仕事をしようってこと?」

「そうですわ」

「……生憎だけど、あたしは仲間になる気はないわ」

 お誘いはありがたいし、そっちのルートへ進んでみたい気もするが、今回は残念ながらそれはできない。すでにあたしの中で、次の展開は決まってしまっているのだ。

「あらそう。それは残念ですわ」

「でも、悪魔退治を一緒にやってやるくらいならいいわよ?」

 仲間になるルートには進めないが、悪魔退治を一緒にすることは今のルートにも組み込むことができる。あたしもボードとシューターで悪魔退治(美少女悪魔にカレピヌをぶっかける)をやってみたかったので、この話の流れは正直ありがたかった。

「……それはこちらも嬉しいのですけれど、しかし装備の数が足りませんわ。わたくしと優理香と夏希の、三人分しか支給されていませんので」

「ということは、装備さえあれば構わないのね?」

「それは、そうですけれど……」

 レミアの言葉には、どうやって装備を用意するのか、という疑問が含まれているようだった。

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