第二章 17 ショータイムの始まり
「その点なら問題ないわ。だってあたしには、神の力があるんだもの」
そう言って乃子は意味深に笑い、左手を顔の前まで持ち上げた。そして左手の親指と中指をぴたりと合わせて、指パッチンの準備をする。
『おっ! 久しぶりに権限を使うんですね!』
(今まで暇させて悪かったわね冥狐。よろしく頼むわ)
『暇なのは別にいいんですけどね。とっても楽ですから! ――はい、オッケですよー』
冥狐のスタンバイとともに、乃子は精一杯の音を立てて指パッチンをした。
すると、光の粒がどこからともなく出現し、続いてそれらの光があるものの形を作っていくかのように、いくかの数に分かれて集まり始めた。
光がある程度の大きさと形になり、その光が弾けると、そこにはオリジナルとまったく同じなシューター一式と反重力フライングボードが二人分存在していた。
「これでどうよ? 問題ないでしょ?」
乃子が自信満々に、どうだっ、と言わんばかりにそう言った。レミアが驚きながら、信じられないといった様子でコピーされた二人分の装備を眺めている。
「完全に同じものだから、心配しなくていいわよ。まあどちらにせよ、こいつらはあたしと紘が使うから、あんたたちは気にしなくてもいいわ」
乃子が付け加えるように言う。その言葉に反応したのは、レミアではなく紘の方だった。
紘はボードに乗ったまま乃子の近くに来ると、先ほどとは異なり今度は一発でその場に停止してみせ、抗議をするように口を開いた。
「……ちょっと待てい! 僕にも悪魔退治をしろと言うのか!?」
「それだけ乗れるようになっていれば、足手まといにはならないと思うわよ?」
「…………なっ」
停止でもたついていたあの時のシーンから、あまり紘のことについては触れていなかったが、触れていない間の時にも紘は必死でボードを乗りこなせるように練習していた。実は紘は、一回ごとの成長速度が見ていて分かるほどすさまじく、あの時からそれほど時間が経っていないのにもかかわらず、すでにほとんど乗りこなせるようになっていた。
「あんたが死ぬ気で練習してるの、あたしが気づいてないとでも思った? 随分上手くなったじゃない。今も、一発であたしの近くに止まったし」
「……何を企んでる?」
「いや別に何も。あんたもやってみたいかなぁと思ってるんじゃないかと」
「……確かに、少しやってみたいとは思っているが」
「じゃあ問題ないわね。ボードもそれなりに乗れてるしさ。……それに――」
乃子は紘の耳元に口を近づけて、囁くように言った。
「(――あたしの神の力で、悪魔は美少女にしておいたから)」
「(――何ぃ!?)」
紘も同じく囁くように驚きを漏らした。やはり男の子であった。
「(――あんたも、美少女に白くてねばねばしたものをぶっかけたくはない?)」
あたしは決定打を打つ。これでやりたくならない奴は、男にしか興味がない野郎だ。紘も完全に決心がついたのか、囁き声ではなくしっかりとした声で高らかに宣言した。
「やるさ! やるとも! いいや、ぜひやらせてください!」
「よし、それでこそ男の子であり主人公よ。それじゃあ、ショータイムといきましょうか!」
ショータイムの時間だあああああぁぁぁぁぁ―――――っ!!
美少女悪魔を、この手で真っ白に汚してやるぞおおおおおぉぉぉぉぉ―――――ッ!!
……ふう。
(ようやくこの瞬間が来たわよ、冥狐。まずは何人登場させようかしら)
テンションは上げていきながらも、冷静に物語を展開させていくのも忘れてはいけない。乃子はその二つを同時に存在させながら、まずは冥狐に向かってそう尋ねた。
『最初は、いきなりですが五人登場させて一対一にするのが良いと思います。初戦はやはりしっかりと描写するべきですからね。一人の悪魔に対して数人を配置すると、ごちゃごちゃしすぎると思いますから。それは一対一をやった、そのあとでも良いでしょう』
(なるほど、理に適っているわね)
『それに、乃子っちの考えている展開にするには、紘さんを一人にした方が自然な流れだと思ったので。そのことも考えて、一対一を提案しました』
(さすが冥狐だわ。上手く考えているわね。この物語が終わったら、ご飯奢ってあげる)
『お、いいんですか? 絶対ですよ? 忘れないでくださいね?』
(もちろんよ。さて、それじゃあショータイムの始まり始まりよ)
『りょーかい。――悪魔、召喚!』
紳士淑女の皆様、お待たせいたしました。これよりお楽しみの開始となります!
冥狐が召喚を終えると、秘密基地の中に突然警報らしきサイレンが、迷惑とならない程度の音量でおよそ教室内だけに鳴り響いた。一応近所迷惑とか、そういうことは考えてあるのね。
警報とともに、これまで真っ暗で沈黙していた大型のモニターに電源が入り、画面が明転してあるものが表示された。それは主に線で描かれた地図のようなものだったが、部外者である乃子と紘には何なのか良く分からなかった。
なので乃子は、レミアに対して訊いてみることにした。
「モニターに表示されているのは何なの? 地図みたいだけど」
「あれはこの学校の敷地内を、上から見た時の地図ですわ」
レミアが乃子の質問に答えながら、素早くシューターの装備がある場所まで移動し始める。夏希と優理香も椅子から立ち上がり、レミアのように移動を始めていた。それから三人は慣れた様子でシューターの準備を始め、出撃の用意を行う。




