第二章 14 反重力フライングボード
シューター装備を片付け終えたレミアが、一度乃子と紘の方を振り向いて言う。
「シューターも確かにすごいですけれど……」
前置きのようにそこまで言って、レミアは再び二人から体をそむけてあるものに手を伸ばした。それは壁際に立て掛けられるようにして置かれていた、シューターと似たような配色の、タイヤのない少し厚めなスケートボードのようなものだった。
最初に見た時から、あたしもこれが何なのか気になっていた。……シールド、盾だろうか。いや、盾にしては構造も形もおかしいか。何なのか見当もつかない。
レミアがボードを腕に抱えてこちらの方を向く。
「これの方がすごいですわよ。これは、反重力フライングボードですわ」
「…………は?」
「ですから、反重力フライングボードですわ」
ちょ、ちょっと言葉の意味が分からないわね。文字通りに受け取るなら、重力に反してフライング――浮くことができるボードということになるけど……。ま、まさかね……?
「つ、つまり浮けるってこと……?」
恐る恐る、自分の予想をレミアに訊いてみる。
「そうですわ」
「マジで!?」
マジで本当だった。これは確かに、シューターなんかより数倍もすごいものである。初めて人類が空を飛んだ時と同じくらいすごいものではないだろうか。
「とりあえず見てくださるかしら」
そう言ってレミアは、ボードの側面である薄い部分を手で弄った。すると、地面と接する裏面の方から、怪しげな青色の光が発せられた。同時に、内部機構が動いているような、そんな重低音もかすかに聞こえてくる。
レミアはそのボードを、スッと手放すように床に落とした。そうするとボードは地球の重力に引かれて落下したが、床から十センチほど浮いたところでピタリと静止し、反重力フライングボードという名の通りそのまま連続して宙に浮かび続けた。
「どうかしら、こちらの方がすごいでしょう?」
「そ、そうね、すごいわ」
乃子とレミアが受け答えをしていると、紘が横からレミアに対して質問を発した。
「これは悪魔退治の、どんな場面で使うんだ?」
「そうですわね、どのような場面でも使いますわ」
「え? どういうことだ?」
紘がレミアの言った言葉の意味が掴めず首をひねっていると、彼女は浮いていたボードの上に華麗に飛び乗った。腰を落とし、バランスを取れるような体勢になってからレミアは言った。
「だって基本、このボードに乗って移動しながら悪魔を退治するんですもの」
「ああ、それなら確かに、どのような場面でも使うな。……え、ってことは――」
紘がボードで宙に浮かぶレミアを見ながら、驚いたように続けて言った。
「――えっ!? それってつまり、これに乗りながらカレピヌを撃つってことなのか!?」
「はい、そうですわよ?」
紘の驚きとともに出た問いに対して、レミアは至極当然といったふうに答えた。
「最初は難しいかもしれないですけれど、慣れればどうってことありませんわ。ボードも慣れれば自分の足のように自在に動かすことができますし、射撃に集中することもできるようになりますわよ?」
「へぇー、やっぱりあんたはただの七歳児じゃないのね」
乃子が腕組みをして感心したように言う。
「室内ですから大きくは動けませんが、少し移動してみましょうか」
レミアはそう言って、ボードとともにその体を空中で滑らせるように移動させ始めた。前後左右はもちろんのこと、上下に高さを変えることもできている。それからクルクルと横に回転したり、急転回したりもしていた。
正直に言って、見ていてとても楽しそうである。やばい、めっちゃ乗ってみたい。
読者を楽しませるような物語を作っていくのが、ストーリーテラーであるあたしの仕事であり、ただ単に自分が楽しむなんてことはあってはならないのだが、今だけはそれを完全に捨て去り、単純にボードに乗ってみたいという衝動に駆られていた。
……す、少しくらいいいよね? 許してくれるよね?
『読者の人には、ヒロインが楽しんでいるところを見て、ニヤニヤしてもらっていれば良いんじゃないですかね?』
(それよ冥狐! その手があったわね!)
では読者の皆様、あたしが楽しむところを見ていてください。ニヤニヤしてもいいのよ?
ボードでの動きがどのようなものであるかを見せ終わると、レミアはボードから慣れたように飛び降りた。そのタイミングで乃子は話を切り出す。
「ねぇレミア、あたしも乗りたいんだけどいいかしら?」
乃子はウキウキを完全に隠しきれていない声音で、レミアにそう尋ねた。
「構いませんわよ」
「あ、それなら僕も一緒にいいかな?」
「もちろんいいですわよ。ちょうど二人分ありますからね。――優理香、夏希、暇でしょうがもうしばらく我慢していただけますか?」
「分かりました」「ほぉーい」




