第二章 10 彼女もライトノベルが
『話しかけてほしいんじゃないですか?』
冥狐が推測する。表情で分からないのなら、彼女に直接聞いてみることにしよう。
(冥狐、権限発動よ。本心で思っていることを素直に、口に出して言ってしまうようにして)
『承知しましたー。洗いざらい言わせますよ~』
指定した権限が発動すると、すぐに優理香に反応があった。
「私もお話したいなぁ。でも何を言えばいいのか分からないよ」
優理香の意思とは無関係に口が勝手に動き、心の奥底にある本心が言葉になって現れた。
「!? ――わ、私何言って!?」
彼女は慌てて取り繕うようにそう言って、バッと両手で口を塞いだ。本心が声になって出ていたことに、一瞬間を置いてからようやく優理香は気づいたのだった。
『ほらー。やっぱり話しかけてほしかったんですよ』
冥狐の推測が、まさかの的中していた。ちょっと悔しいんだけど。
まあそれはいいとして。
乃子はニヤニヤとした笑みを浮かべながら、優理香を弄ぶように言う。
「なぁに? 話をしたいなら、遠慮せずに話しかけてくれればいいのにぃー」
「ユリは意外とシャイだからな。自分から話しかけるなんてできないんだよ」
夏希が乃子のあとに追加するように言った。口ぶりから察するに、それなりに二人は付き合いが長いのだろう。ていうか、彼女のことユリって呼ぶのね。
「だって、相手が楽しいと思ってくれる会話が、私にできるかどうか不安なんだもん。もしもつまらないとか思われたら嫌だし、それ以降話しかけづらくなっちゃうんだもん。それに相手も話しかけてくれなくなっちゃうかもしれないし」
そこまで言ったところで、優理香は再び本心が漏れ出ていることに気がつき、また慌てて両手で口を塞ぐ。
「! ――ま、何で!?」
「ほうほう、そんなふうに思ってたのね。でも考え過ぎよ。いくらその人が話すのが苦手でも、そこまで本人は気にしたりはしないものよ」
乃子がカウンセラーのように、彼女の不安に対して返答をする。これまた夏希が引き継ぐように、乃子の言葉のあとに続いて言った。
「まあ、つまらない話を延々と聞かされるくらいでもしなければ、大して何とも思わないよな。どんなに恥ずかしがり屋でも、そこまでコミュ症ではないだろ。相手の話も聞きつつ会話すれば、それなりにはなるから安心しろよ」
乃子と夏希の言葉を聞いて、優理香の本心がまたも漏れ出る。
「それができても、そのあと仲良くなるにはどうしたらいいか分からないの。同じ趣味で意気投合でもすればいいんだけど、でも私には趣味なんて読書くらいしかないし……。それも子供っぽいライトノベルばかりだから、余計に話題にしにくいし」
ん? あれ?
これは意外。まさかライトノベルが好きだったとは。
テーブルの上に置かれている、先ほどまで彼女が読んでいた本をよく見てみると、確かにサイズがライトノベルで使われている文庫本のそれだった。
「優理香、あんたは幸運ね。ちょうど今ここに、ライトノベルが好きな人物が二人いるのよ」
あたしはラノベの中で(もちろんそれ以外でも)キャラを演じるキャラクター役者だが、そのライトノベル自体も結構好きだったりする。コメディ作品が特に好きで、それなりに読んではいると自負している。
乃子は左手首を曲げて、その親指で紘を指差して言う。
「特に彼は、ライトノベルが死ぬほど好きなの。彼だったらあんたと趣味が合って、話も合うかもしれないわね。意気投合して仲良くなれるわよ。――おーい、紘っ」
中腰で、壁際近くの謎の機械類を調べるように眺めていた紘が、乃子の声に気づいてこちらを振り向いた。スッと立ち上がってから、あたしたちの方へと近づいてくる。
「何か呼んだか?」
「ええ呼んだわ。ちょっと紘、優理香の隣に座ってくれる?」
「? 何でさ?」
「いいからいいから」
紘は疑問に思いながらも、乃子に言われた通り優理香の隣の椅子に腰を下ろした。
「で? 何かあるんだろう?」
紘が乃子の考えていることを急かすように言う。
「紘、あんたライトノベルは好きよね?」
乃子は今更訊くまでもないことを、もう一度確認するように紘に尋ねた。
「何を今更。当たり前じゃないか。僕の理想の死に方は、ライトノベルを読んでいる最中に衰弱することさ。それくらいライトノベルが好きだ」
「さっき話してて分かったんだけど、優理香もね、ライトノベルが好きなんだって。だから三人でいろいろお話しましょう。ライトノベルの話題で」
乃子がそう言うと、紘は驚いたように優理香を見た。
「本当かい一条さん!? いや優理香さん!?」
「は、はい。大好きです」
「好きなジャンルは何ですか!? 現代ファンタジーですか? 異世界ファンタジーですか? 学園ものですか? 恋愛ものですか? コメディものですか? SFものですか? ミステリーものですか? ホラーものですか?」
「えっと、やっぱりラブコメですかね」
「いいですねラブコメ! 僕も好きです! あれは読みましたか? 『まほカンケ!』」
「はい読みました。ヒロインがとても面白おかしくて好きでした」
優理香は答えると、今度は乃子に対して質問をしてきた。
「広院さんはどんなジャンルが好きなんですか?」
「あたし? あたしもコメディ系かな。あと乃子でいいわよ」
「そうなんですか。―――――――――――――――」
「――――――――――――――」
「――――――――――――――――――――」
あたしたち三人は、それからしばらくの間、ライトノベルの話題で楽しく会話を繰り広げた。これで優理香も満足してくれるだろう。カウンセラー乃子のおかげですな。




