第二章 11 キャラ崩壊は大歓迎
ライトノベル談議に花が咲いて五分ほどが経過した時。
基地のチョコ扉が突然にまたも無理矢理こじ開けられ、一人の人物が姿を現した。
それはもちろん、この場にいないレミアだった。
「なぜわたくしが職員室に呼び出されなくてはならないんですの――――――――ッ!!」
レミアは基地に入ってくるなり、開口一番にそう叫んだ。
夏希がゲームを中断し、ゲーム機をテーブルの上に置いてから愉快そうに言う。
「え、何? ほんとに職員室に呼び出しくらってたのか、レミア」
「そうよ! この真っ黒焦げの扉の件に関してよ!」
レミアはチョコ扉を指差して、本当に七歳児の幼女らしい声で叫ぶように言った。それからもぐちぐちと続けて言う。
「そもそも呼び出すなら私じゃなくて広院乃子でしょう!? これを引き起こしたのは広院乃子なんだから! 広院乃子が呼び出されてしかるべきだわ!」
「いやいや普通に先生は、乃子の疫病神体質でこれが起きたなんて知らねぇからな?」
夏希がレミアの憤りを、畑違いだとでも言うようにそう指摘する。
「そのせいで一から説明するはめにもなりましたわ! それも一度で分かってくれなくて、何度も説明するはめにもなりましたのよ!? まったく、何ですぐそうだと受け入れてくださらないのかしら!?」
「そんなの一般人には、絵空事としか思われないから当たり前だろ。今更何言ってるんだよ」
再び夏希の指摘が入る。レミアは面白くないといったふうに、ふんと鼻を鳴らした。
それからレミアはずかずかと足音を立てて――違う、ぱたぱたと足音を立てて、乃子の右隣の椅子に上品さの欠片もない乱暴さで腰を下ろした。そしてテーブルにあった乃子のために用意したお菓子に手を伸ばすと、わし掴むように残っていた菓子を手に取った。
そのまま貪るようにお菓子をぼりぼりと食べる。上品キャラはどこへ行ってしまったのかと思うほどの酷さであった。
「とひゅうか、にゃんであふぁしだへが呼ひ出しゃれるのひょ! にゃっとくいひゃない! じぇんいんでひょふひゅうは!」
極めつけに、ついには食べながら喋り出した。これは酷い。キャラもくそもあったもんじゃないわね。あたし的には、キャラ崩壊は大歓迎だけど!
「レミア様、さすがにはしたないですよ」
優理香がさすがに注意をする。レミアは唇を尖らせながらも、言う通りにして黙った。
「まあその、何だ。ご愁傷様としか言えないな。リーダーだしな」
夏希が肩をすくめて言った。レミアは高速でもぐもぐと口を動かし、お菓子を飲み込んでから口を開いた。
「そうですわ。リーダーであるわたくしが、全て済ませておいたのですから、感謝してほしいくらいですわ」
言いながら、レミアは威厳を出すかのように目を閉じて腕を組んだ。
「おう、ありがとなレミア」
「ありがとうございます、レミア様」
夏希と優理香の二人は、こういう場合のレミアの扱いが分かっているのか、素直に感謝の言葉を述べた。レミア・レーネス、意外とちょろいな。いや、単純なだけか。
「ええ、構わないわ。だってリーダーだもの」
うんうん、と上機嫌にレミアは頷く。本当にちょろかった。
「それより、早く悪魔退治の方法についての話をしましょう」
目を開け腕組みを解いたレミアはそう言うと、再びお菓子に手を伸ばした。残っていた最後の一枚のクッキーを摘むと、今度は片方の手を受け皿のようにして、良家のお嬢様のごとく麗しい所作でそのクッキーを口の中へとお招きした。
レミアの本来のキャラを表したかのような、とても上品な光景だったのだが――。
悲劇にも、そこで事件が起こってしまった。
レミアの口の中から何かが爆発したような、そんな感じの音が聞こえたのである。
「!?」
レミアが驚きの表情とともに、目を大きく見開く。それから彼女の鼻から、もうもうと黒煙が漏れ出してきた。たまらずに口を開けると、そこからも黒煙が漏れ出してくる。
「げっほげっほ! な、何ですの、これは! げっほげっほ!」」
涙目になってせき込むレミア。結論から言うと、ここまでなりをひそめていたイレギュラーが、久しぶりにこのタイミングで来てしまったというわけだった。
しかし、あたしもイレギュラーに慣れ過ぎたのか……いや毒され過ぎてしまったのか、今のを見ても軽いジャブにしか思えないようになってしまっていた。
『まあ、一発KOのアッパー並みのを見てしまいましたからね。仕方ないですね』
あの扉での爆発は衝撃的だったなぁ、と今更ながらそう思う。
ふぅーふぅー、と体内の煙を最後まで吐き出したあとに、レミアはやや苛立った声で言った。
「ああまったく、わたくしばかりに不幸が重なり過ぎですわ!」
「ごめんねーあたしのせいでぇ」
乃子はわざと軽い口調でそう言う。メインヒロインだということが信じられないくらい煽っている気もするが、数多くあるライトノベルの中でこの作品くらいは良いだろう。
「ま、まあいいですわ。それよりも、早く悪魔と、その退治方法についての話をしてしまいましょう。いつ悪魔が襲来するかも分かりませんから」
そう言うとレミアは立ち上がった。それから壁際の機械類に向かって歩き始める。彼女は機械類の近くまで歩みを進めると、こちらに振り返った。




