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第二章 7 SUSHI

「さあ、存分に召し上がりなさい」

 乃子に対して『ほら食べろ』と言わんばかりに、レミアが両手を広げる。

「言われなくても」

「けれども、わたくしの話はしっかりと聞きなさいよ」

 レミアがプラスチック製の醤油差しのキャップを開けながら、付け加えるように言った。それからそのまま醤油を寿司にぽたりぽたりと付けていく。

 お嬢様っぽいキャラなのに、意外と庶民的でびっくりなんだけど。

(……それはさておき)

 さて自分も食べようかなと、乃子は寿司皿に視線を落としたが――。

【ああ食べないで! やめてください!】【食べられるのってどんな感じなのかなぁ? もしかしたら気持ちいいのかなぁ?】【アアアアアアッ!? マアアアアアアァァァァァ!?】【愛する娘よ、パパは先にあの世に旅立ちます】【嫌だよぉ~。 死にたくないよぉ~】

 ――寿司ネタがピクピク動きながら、何か喋っていた。

 これはさすがに予想できない。

『うわー、なんか気持ち悪いですね。これでも本当に食べるんですか?』

(あ、当たり前よ。こ、こんなの、ちょっと喋ってるだけで、た、大したことないわ。ピクピクしてるのも生きがいいからよ、い、生きが)

 乃子も付属の醤油差しで、寿司に醤油を付け始める。

【ああ醤油が! やめてください!】【わあ醤油が気持ちいいなぁ。食べられるのも気持ちいいと良いなぁ】【オアアアアアアッ!? ゲアアアアアアアァァァァァッ!?】【娘よ、パパはもうすぐ旅立ちます】【嫌だよぉ~。醤油気持ち悪いよぉ~】

 意を決して、乃子は初めにサーモンを手に取った。


「――ということですわ」

 レミアの話したいこととは、端的に言えばあたしの考えた設定のことだった。

 あたしの考えた設定を、彼女自身の言葉で丁寧に説明してくれたのだ。乃子は悪魔に狙われていることや、そのためにレミアがここに来たことなど。

 もちろんあたしは良く知っているので(あたしが考えたのだから当然なのだが)、適当に半分くらいしか聞いていなかった。どちらかというと、紘のための説明だったかもしれない。

「ふーん、なるほどねー」

 適当に相槌を打って、乃子はマグロの寿司を口に放り込んだ。これが最後の一つだ。

 慣れてしまえば、ピクピクした動きも声もほとんど気にならなくなっていた。むしろ口に入れた時の反応を聞くのが楽しくなっていた。

 ごくりと嚥下し、仲間のもとへ送ってあげる。

 何にせよ、見事完食しました。とても美味しかったです。

「レミア、一つ質問してもいいか?」

 弁当を食べ終え、弁当箱の後片付けを始めていた紘が、レミアに対して尋ねた。

「…………っん、何ですの?」

 寿司を飲み込んでから、レミアが答える。紘は一度後片付けの手を止め、人差し指で乃子を指差しながら、続けて言った。

「こいつがいる限り、不幸なことは起き続けるんだよな?」

 あ、やっぱり名前で呼んでくれないんだ。まだ好感度が足りないのかな?

「そうなりますわね」

「何か方法はないのか? こいつが不幸なことを招かないようにする方法は? このままだと一番近くにいる僕が、一番不幸の被害を受けることになるんだ」

 今のは己に降りかかる厄災を何とかしたいという、あくまで自己中心的な台詞なのだが。

 なんか聞き方によっては、ヒロインを助けたい主人公の台詞に聞こえなくもない。

『ちょっと格好いいかも、って思っちゃいましたよ私。でも残念なことに――』

 でも残念なことに、不幸を招かないようにするなんて、そんな――

(――そんな方法はないんです)

『――そんな方法はないんですよねぇ~』

「悪いけど、そのような方法は見つかってないわ」

 レミアは首を横に振り、紘の質問に対してはっきりとそう答えた。

 ほらね。

 だってそれは、この世界ではどうすることもできない、神のルールだから。

「……そうか、分かった」

 紘は少しがっかりしたような、そんな表情をして呟いた。

「大丈夫よ。どんなに不幸なことが起ころうとも、あたしには神の力があるでしょ。だからどんなに不幸なことが起こっても、おあいこよ。おあいこにできるわ」

「…………ああ」

 テーブルの上の弁当箱の辺りをぼーっと見つめたまま、紘は生返事のように小さく呟く。

「それにギャグ補正もすでにかけておいたし。だから身体的な不幸は起こらないわ。さっきの爆発だってそうだったでしょう?」

「……ああ」

 せっかくあたしが元気づけるような言葉を掛けてやっているというのに、何なのその壊れた人形みたいな反応は。まったく、主人公らしくないわね。

『お? おっ?』

 これはビシッと言ってやる必要があるかしらね。

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