第二章 6 レミアの仕事仲間
「一条優理香です。よろしくです」
柔らかな口調で優理香はそう言うと、ぺこりと可愛らしくお辞儀をする。そのお辞儀の動きに合わせて、腰まで伸びる美しい黒髪がさらりと揺れた。彼女は身長こそ乃子と同じくらいだが、顔つきは乃子に比べてだいぶ幼さが残っていた。さすがに七歳児であるレミアほどではないが、それでもかなりの童顔だった。
「アタシは神林夏希。よろしくな」
もう一人の夏希が自己紹介をする。夏希は女子にしては結構身長がある方で、その口調も相まってお姉さんというか、姉御のような人物だった。この場にいる他の女の子に比べて、やや小麦色の肌をしているのも特徴的だ。髪は首の辺りで切り揃えられたショートカットで、色は暗い青――ダークブルーである。
二人は学校の制服ではなく、個人の私服を着ていた。どうやらこの学校の生徒ではないらしい。年齢は分からないが、おそらく学生でもないのだろう。
「レミア様、先ほどの爆発は大丈夫でしたか?」
優理香がレミアに尋ねる。
「ええ、怪我もないし平気ですわ。それより扉の修理をお願いできるかしら」
「かしこまりました。早急に手配させます」
「あとついでに、自動ドアにしておいてくださるかしら? いちいち手で開けるのも面倒くさいですから。それからセキュリティも万全に――――――――」
「―――――――」
レミアと優理香があれこれ話している間に、夏希が乃子たちの近くに歩み寄ってきた。
「アンタが広院乃子?」
「そうだけど」
夏希は乃子の顔をまじまじと見つめ、それから再び言った。
「なんか可愛げのない顔だなぁ。もう少し可愛い顔できないの?」
お? 人様の顔に喧嘩売ってんのか?
「初対面のくせに失礼なことを言う奴ね。あんたこそ、もう少し可愛げのある性格にできないの?」
「おお言うね、気に入ったよ。アタシはなよなよしたのが嫌いでね。わざと嫌なこと言って、言い返してくるか試したのさ。悪かったな」
「それはどうも。あとちょっと言い方がきつかったら、殴ってたかもしれないわ」
「いいね、ますます気に入ったよ」
夏希はそう言って快活そうに笑った。
「もしもしそこのお三方、こっちに来てくださるかしら」
レミアがあたしたちを呼んでいる。乃子と紘、それに夏希の三人は、テーブル近くにいるレミアのそばまで移動した。
「話をしますから座って。遠慮はいりませんわ」
レミアに促され、乃子と紘は高級そうなふかふかの椅子に腰を下ろした。レミアと優理香と夏希も、同じように向こう側の椅子に腰を下ろす。
「ねぇ、あたしの寿司はまだなの? お腹すいたんだけど」
乃子がテーブルの上で指を動かしながら、待ちきれないように言った。
「せっかちな女は好かれませんわよ、広院乃子」
レミアが手を組み合わせつつ静かに言う。見えている上半身の部分はとても上品な所作だが、絶対床に足ついてないよね、あれ。
「あたしは別に好かれなくても全然構わないわ」
「そうですわね、あなたはそういう人間でしたわね」
「それに、あたしには種神紘っていう素敵なパートナーがいるし」
どうだ! この台詞は決まったでしょ!
乃子がちらりと紘の方を見ると、彼はせっせと弁当箱を広げている最中だった。
「……ん? 何か言ったか?」
途中で乃子の視線に気づいて口を開いたが、残念なことに発した台詞は期待したものとは程遠いものだった。というより、それ以前の問題だった。気の利いた格好良い返事どころか、話すら聞いていなくて聞き返された。
泣きたい。
「何でもない。何も言ってないから」
『これは恥ずかしいですねぇ~。ああ~、恥ずかしい~』
あんたは慰めというか、フォローしなさいよ! 何であんたまで煽ってんのよ!
一瞬言葉を発しづらい雰囲気になったが、すぐに夏希がその雰囲気を打ち破るように言った。
「ほんとまだっすか? アタシもお腹すきました」
ありがとう夏希。あとでハグしてあげるわ。愛してる。
「あと少し、あと十秒待ちなさい」
レミアが具体的な数字を出して待つように言う。その言葉通り、十秒数えて待ってみる。
すると、本当に十秒後にチョコ扉とは逆側の教室の扉が開き、お寿司の配達人が現れた。
「お待たせしました! お寿司四人前お持ちしました!」
配達人は慣れたようにテーブルまで歩み寄ってくると、円形の寿司皿を紘以外の四人の前に順番に置いた。そして一礼すると、速やかに教室から退出していった。
――寿司が来た。




