#07ネスト破壊作戦
早朝、シエラは日課の見回りをしていた。街の治安維持もまた、騎士に課せられた役割だった。この頃は、レギオンの襲撃も無く、至って平和な日々が続いていた。街を歩いていると時計台の周囲に住民が集まっていた。
人混みをかき分け近づくと、中継装置に向かって石を投げているのがわかった。
「ちょっと!何をしてるんですか!」
石を持った初老の男が答える
「うるさい!止めるんじゃない!こんなものがあれば、また大蜘蛛たちが現れる!」
「何を言ってるんですか!とにかく、一旦拘束します!」
シエラは縄で男を拘束したのだった。
しばらくして事情聴取が行われることとなり、カイト・リアナ・シエラを含めた関係者達が集められた。
「なぜあんなことをしていたんです!?」
「虫は光に集まってくる。あんなものがあれば、またいつ大蜘蛛が現れるかわらからないじゃないか!」
リアナが尋ねる
「そうなの?カイト?」
「いや、そんなはずは…」
男は声を荒げた。
「こんな奴の言うことが信用できるのか!リアナ様は騙されてるんだ!」
男の仲間たちも「そうだ!そうだ!」と口々に声を上げた。
「ちょっと!貴方たち!」
口を開いたリアナをカイトが制止する。
「待ってください。じゃあ、二度と現れないようにすればいいんですね?」
「そんな事出来るのか!?」
「ソフィア、説明してやってくれ」
ソフィアが起動し、解説を始める。
『はい。大蜘蛛…レギオン達はネストと呼ばれる端末装置から司令を受け、そこでエネルギー供給を始めとするメンテナンスを受けています。』
リアナが続ける。
「つまり、それを壊せばもう奴らは現れないってわけね?」
「そうです。そしてそれがどこにあるかの目処は立っています。」
こうしてカイトは、ネスト破壊作戦を行うことになったのだった。
「本当に1人で行く気なんですか!?」
機体の調整をするカイトにシエラが問う。
「ああ。」
彼は険しい表情で答える。
「皆で立ち向かう方が勝ちにつながります!」
言い返すシエラに向かって、カイトは怒鳴る。
「これは”俺の役割”なんだ!生きている人間には役割がある!リアナは領主、お前は騎士!住民たちにもそれぞれ農家やパン屋、大工だっている。俺にもかつてはメカニックという役割があった。だけど千年後の今、その役割は失われた…俺には技術をひけらかすこととレギオンを倒すことしか役割がない!それが無くなったら、俺は何者でもなくなってしまう!」
シエラは何も言い返せなかった。
彼の傷心は、思いのほか深刻だった。過ぎ去った千年は、彼と人々の間に癒えることのない溝を作ったのだ。事実、シエラは彼のパーソナリティを全く知らなかった。太古から目覚めた超技術の伝道師、そんな超人的な側面しか知らない。その内面は自身の目覚めた理由と、孤独に葛藤する1人の人間だった。
シエラが去ったのを見届けると、カイトはつぶやく。
「失敗するかもしれないのに…巻き込めるわけないじゃないか…」
ソフィアにシミュレーションさせた作戦成功確率は80%。残りの20%は不確定要素によるものだった。
作戦に向けて、カイトはデクストロスを強化した。
右腕のカッティングユニットは鉱石採掘に使用した旋回式ボーリングユニット、いわゆるドリルのような装備。
左肩には、レギオンの光弾砲をリバース・エンジニアリングした射撃兵器が備え付けられた。
バッテリーパックを稼働時間延長の為に増設。
そして、今回の戦略の肝となる、ジャミングコート。これはバックパックに装備された電子戦用モジュールだ。これでレギオン達の動きを止め、その間にネストの中枢を破壊する。それがカイトの立てた作戦だった。ソフィア曰く、このジャミングコートはバッテリー消費量が莫大で、持続時間が短いのが懸念材料だ。
意を決して機体に搭乗しドックを出るカイト。
「準備はいいか、ソフィア?」
『はい。ですが、本当に独りで行かれるのですか?』
外壁の門の前には、リアナ達が待っていた。
「必ず帰ってくるのよ!」
リアナが発破をかける。
「はい、約束します!」
カイトはアクセルを踏み、機体を発進させた。
リアナたちは、遠ざかる機影を手を振って見送るのだった。
ネストのある場所は、まるでクレーターかのように地面が抉れていた。それは、複数のカプセル型構造物で構築された巨大施設だった。
「まるで上から降ってきたような感じだな…」
『雨季には雨が溜まり、堀の役目を果たすのかもしれません。』
「今は水が溜まっていない今がチャンスだ。ソフィア、ジャミングコートの準備は良いか?」
『スタンバイOKです。』
「3カウントで、スタートだ。」
『了解。3…2…1…ジャミングコート、展開します。』
デクストロスを中心にフィールドが展開される。
『持続時間およそ60分』
「十分だな。」
ドームの外壁をドリルで破壊し突入。
土埃が晴れると、動けなくなったレギオンたちがびっしりと 存在する光景が広がっていた。
「石の裏についた虫みたいだ…」
ゾワッとする想像を振り払い、最深部へと歩を進める。
ネストの最深部は、分厚い扉に閉ざされていた。
「回転速度を上げる!」
ドリルが高速回転を始め、扉に穴が開く。
中に侵入した瞬間、カイトが目にしたのはコンピューターではなかった。そこには、レギオンの倍はある巨体の背中には、高出力光線砲を4門備えた兵器がそびえていた。
「これは…!?」
『情報によれば、ここに中枢司令ユニットが存在するはずなのですが…』
機体のカメラが、その巨体をスキャンする。
解析結果が表示されたディスプレイを見て、カイトは息を呑む。
「まさか…!」
『この兵器、TGこそが中枢司令ユニットのようです!想定外の事態です!』
8つの目のようなセンサーが、カイトを捉える。
「くそッ…気付かれたか!」
狭いドーム内では圧倒的に不利なカイトは、来た道を戻る他なかった。
光線を放ち壁を破壊して、その瓦礫を踏み潰し迫るTGはまるで怪獣のようだ。
「体格が違いすぎる…でも、動きはこちらが速い!」
ビークルモードの機動力を生かし、光線や振り下ろされる脚をなんとか回避する。
光弾を引き撃ちするが、装甲にダメージはない。
「何か弱点は無いのか!」
暫く防戦が続いた。その間カイトはひたすらに敵の動きを観察し、ある事実に気づく。
「このパターン…もしや!」
TGの動き、それにカイトは見覚えがあった。
シエラが操縦練習にも利用したあのVRゲーム、SESには蜘蛛のようなエネミーが登場する。その中でも"Arachne the Widow"(未亡人アラクネ)と呼ばれるエネミーは、強敵だったが弱点の腹部を守るよう行動パターンがプログラムされていた。
そして今対峙しているTGの動き、それは懐へと入らせまいとしているように見えた。
「あの機体の腹部はどうなっている!?」
『TGの腹部分には排熱用のファンがあります。数分おきにハッチを開き、ファンが露出するようです!』
「そこを狙うしかない!」
絶体絶命に思えた状況に、光明がさした瞬間だった。




