#04 カイトの野心
カイトは自らの手で再建した街を歩いていた。
あれからレギオンの襲撃も無く、街の住民も日常に戻っていた。
カイトには野心があった。
それは、この街をハイテク都市に改造すること。中世ヨーロッパのようになってしまったこの世界に再びテクノロジーを復活させる。
言わば歴史の軌道修正だ。
その第一歩として、街の再建が成った。
次のステップに進むため、彼はリアナの邸宅へと向かっていた。彼女の館は丘の上にあり、奇跡的にレギオンの被害を免れていた。
召使いに案内され、カイトは客間へと足を踏み入れた。テーブルには紅茶が湯気を立てている。
「いらっしゃい」
「まるで分かっていたようですね?」
「そうよ。貴方をずっと見てましたもの」
「なぜです?」
「何処から来たか・何故そこに居たのかだけじゃ、”どんな人なのか”はわからないでしょ?」
カイトは紅茶を一口飲んだ。
カナン129は温暖で、今日腕まくりをする程の気温だ。
「紅茶、飲まれないんですか?」
「猫舌なのよ。だけど生の水はすぐダメになるから、こうしてお茶にしなければ飲めたものじゃないわ。」
「じゃあ、その問題から解決しましょう。」
「え?」
カイトは、自らの野望を語った。
「まずは綺麗な水をいつでも飲める設備を作りましょう。鎧や剣を作れるなら、採掘場だってあるんですよね?」
「ええ。ただし、そこ行くなら条件があるわ。」
彼は紅茶と共に、条件も飲んだ。
「君がシエラか…」
「はい、よろしくお願いします。」
リアナが出した条件…それは、案内役としてリアナ配下の騎士たちの1人、シエラを連れて行くことだった。
彼女がこの役に立候補したのには理由があった。
それは襲撃時に目にした光景だ。
レギオン襲撃の知らせを聞き、駆け出したシエラ。
その日の為に鍛錬を積み重ね、愛用のレイピアの手入れも欠かさなかった。
迫り来るレギオンの装甲の継ぎ目を狙い、突きを繰り出す。
残酷にも、攻撃はレギオンには通じなかった。
逆に共に戦う兵士たちが傷つけられ、街が蹂躙されてゆく。
自らの無力さに死を覚悟したその時、デクストロスに乗ったカイトが現れたのだった。
シエラには、彼が英雄に思えた。
「私にも使えれば…」
その思いをリアナに打ち明けたところ、カイトに近づく機会を与えられたのだった。
「じゃあ、早速行こうか。」
カイトはデクストロスに彼女を乗せると採掘場へと向かった。
採掘場に着くとカイトはソフィアを呼んだ。
「ソフィア、金属反応を探してくれ」
デクストロスのセンサーが、辺りをスキャンする。
地形が画面に映し出され、そこに印が表示された。
カイトは、換装してきた旋回式ボーリングユニット、いわゆるドリルのような装備でその地点を地面を掘った。
空いた穴を左手で掬うと、キラキラと光を反射する鉱石が出土した。
「これは…」
ソフィアが解説する。
『ナノマシンの結晶体です。精製すれば、十分資材として使えます』
「なるほど…でも何故地中にナノマシンが?」
『300年前の地層から発見されたものですから、開拓時使用されたものの残骸と予測されます。』
「300年前?それ以降の地層には無いのか?」
『発見できません』
「少なくとも300年前までは、文明は退化していなかったのか」
謎は深まるばかりだが、今日は資材の回収に来たのだ。考古学の研究に来たわけではない。
それを荷台に積み、カイトたちは帰路についた。
「リアナさんから聞いたよ。まだ若いのに、勇敢に戦ってくれたって」
帰りの車中、カイトは尋ねた。
シエラは答える。
「でも、皆を守りきれなかった。だから、今度は守れるようになりたいと思っています。貴方のように鉄戦車を操れれば、それが叶うはずです。」
「だから、俺に近づいた?」
「そうです。」
カイトは思った。この少女も、所詮自分を利用しようと考えている。
“仲良くなれるかも”というのは希望的観測だった。
千年の孤独は、そう簡単に埋まらないのだ。
「いいよ…教えてあげよう」
「ほんとうですか!?」
今まで暗い顔をしていた彼女が、目を輝かせた。
この仕事が相当嫌だったのか?そんな邪推をしながら、カイトは言う。
「ギブアンドテイクだ。その代わり、時々俺の話し相手になってほしい。それと…」
「それと?」
「監視をやめるよう、進言してほしいんだ。」
そして次の日
「おはようございます!カイトさんー!」
早朝、ドック区画にシエラの声が響いた。
「元気なのはいい事だけど…」
眠い目を擦りながら、カイトは目を覚ます。
寝袋から出てシエラの方を見る。
「もうちょい遅くできないかな…」
「街の見回りに合わせてるので!では、また昼に伺いますね!」
「ちょっと!」
呼び止めるカイトの声は届いていないようだ。
「話し相手になれとは言ったけど…」
今後のことを思い、カイトは肩をすくめるのだった。




