(4-2)電話1
美樹は受話器へ手を伸ばした。そこで、ふと電話機の小さな液晶画面に目を向ける。
表示されていたのは見慣れない番号だった。
<08512-X-XXXX>
(08512?)
思わず首を傾げる。
携帯電話が普及してからというもの、固定電話にかかってくるのは親戚からか何かのセールス、もしくは勧誘くらいだ。ましてや県外、それも見覚えのない局番など珍しい。
(どこだろ)
そう思いながら受話器を取った。
「はい、遠藤です」
一瞬の沈黙。
続いて聞こえてきたのは、ひどく聞き取りにくい声だった。
「・・・・・・よろしく・・・・お願いします・・・・・・よろ・・・・お願い・・・・・・」
「え?」
美樹は思わず受話器を耳へ押し付けた。
「あのー、もしもし? 聞こえないんですけど?」
だが返ってくるのは同じような声だけだった。
「・・・・・・よろしく・・・・お願いします・・・・・・」
男なのか女なのかもわからない。
もちろん年齢もわからない。
まるで遠く離れた場所から、かすかな声だけが届いているようだった。
「えーっと……何ですか? 何かのセールスですか?」
「・・・・・・よろ・・・・しく・・・・します・・・・・・」
何かを伝えようとしている。
それだけはわかった。
しかし内容がまるで聞き取れない。
雑音が入っているわけではない。
固定電話だから電波が悪いということでもないだろう。
ただ声だけが妙に遠かった。
まるで何枚もの壁を隔てた向こうから話しているような、そんな不思議な聞こえ方だった。
美樹は困ったように眉をひそめた。
「えーっと……よく聞こえないので切りますね」
そう言って受話器を耳から離す。
その瞬間だった。
「託して・・・・・・よかった・・・・・・」
今度だけは妙にはっきり聞こえた。
思わず美樹の手が止まる。しかし、次の瞬間には通話が切れていた。
ツー、ツー、
無機質な音だけが聞こえる。
「……何?」
受話器を見つめる。
今の最後のは何だったのだろう。
聞き間違いだろうか。
いや、確かに聞こえた気がした。
よかった?
託して?
そう言ったように聞こえた。
(誰が? 何を?)
意味がわからない。首を傾げながら受話器を戻した。




