(3-33)忠史の決意
一方、忠史もまた、姫路から東京へ戻って以降大きく気持ちが変わっていた。
あれほど自分を押し潰していた不安が、今はもうまったく無くなっていた。
本橋と話せたことが大きかった。誰にも話せず、一人で抱え込んでいた思考をひとつずつ言葉にして整理できた。それだけで世界の見え方が変わった。
大学へ向かう道。
駅のホーム。
雑踏。
以前と同じ景色なのに、自分だけ少し違う場所に立っているような感覚がある。
忠史は、渉に言われた通り捲る練習を再開していた。
大学の裏手。
人の少ない公園。
河川敷。
土を踏みしめながら静かに集中する。
大地からエネルギーを吸い上げるイメージ。
指先へ集める感覚。
目を皿のように開き視線を固定する。
最初は掴みづらい感覚だった。だが、不思議と以前より集中できる。ほんのわずかだが“何か”が近づいているような感覚もあった。
そして今では忠史は思っていた。もし本当に自分に能力が発現したとしても――。
渉は死なない。
なぜそんな風に思うのか自分でもよくわからない。根拠もない。ただ何となくそう思えた。だから以前のような恐怖はもうなかった。
むしろ今は。
早く渉のようになりたい。
早く力になりたい。
そんな気持ちの方が強くなっていた。
奥袴狭。
道なき村。
外界から閉ざされながら、それでも静かに人を導く場所。
そこへ導かれた二人。
大村環。
遠藤忠史。
まったく違う人生を歩いてきた二人だったが、その運命は少しずつ奥袴狭へ引き寄せられていた。
それが何を意味するのか。
その先に何が待っているのか。
まだ、誰にもわからない。
ただ――。
山の奥深く。
淡く光るあの村は、今日も静かにそこに在り続けていた。
ここまでを「捲る人(第三章)」にしようと思います。
第二章を終えた時には「次の章で締めようか……」などと思っていたのですが、なんだか終わりが見えず。
今後どういう風にすすめていこうか、またひらめきの赴くままゆっくり考えます。
いつも読んでいただきありがとうございます。
これからも読み続けていただけると幸甚です。




