表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/72

(3-3)環との再会

 十六時を少し回った新宿南口。

 人の波は相変わらず途切れることなく流れ、夕方へ向かう街全体がせわしなく脈打っていた。


 その喧騒を見下ろすように、駅前のビル四階にある喫茶店は不思議なほど静かだった。落ち着いた照明、控えめなクラシック音楽、磨かれた木のテーブル。窓際の席に忠史と環は向かい合って座っていた。


 先に口を開いたのは忠史だった。


「えっと……お話を聞く前に先に僕から訊いてもいいですか?」


 環は小さく微笑み背筋を伸ばしたまま頷く。


「はい、何でしょう?」


「お兄さん……芽来(めぐる)さんは大丈夫ですか?」


 そう言いながら忠史はあの日の光景を思い出していた。暗く狭い岩の隙間にあった人影、張りつめた空気、救出後にゆっくりとコップ一杯の水を飲みほした時の表情。


 環は静かに答えた。


「はい、ありがとうございます。もうすっかり元気です。右足で踏ん張るとまだ痛みはあるようですが、日常生活はまったく問題ありません」


「そうですか。よかったです」


 忠史は胸の奥に溜まっていた小さな緊張がほどけるのを感じた。自然と肩の力も抜ける。


「あの後も、いろんな依頼が立て続けに入っていて……それに、どれもけっこう重い事案ばかりなので、なかなか皆さんのその後のことがよくわからないままで……」


 言いながら、自分でも少し言い訳じみていると思った。だが本音でもあった。関わった人たちのその後が気にならないわけではない。けれど、次々に訪れる現場の中で振り返る余裕などなかった。


「そうですよね……大変なお仕事だと思います」


 環は責めるでもなく、ただ理解を示すように頷いた。


「でも、誰にでもできることではないし……多くの方々に必要とされる大切なお仕事だろうと思っています」


 まっすぐな言葉だった。

 忠史は照れくさそうに視線を落とし、コーヒーカップの縁に指を添えた。


「はい……僕もバイトというか見習いみたいなもんですけど、もっともっとしっかり取り組めたらなんて思ってるんですが……とにかくまだ学生だし、普段は東京にいるし……なんだかもどかしい気分なんです」


 そこまで言ってから忠史ははっとした。

 本来なら、環の相談に乗るためにここへ来たはずだった。なのに気づけば自分の胸の内を語ってしまっている。


「あ、すみません。大村さんにこんなこと言ってしまって」


 慌てて頭を下げると環はやわらかく笑った。


「いえ。遠藤さんの素直さというか正直な感じはとても好印象です」


 その言い方に社交辞令めいた軽さはなく、忠史は余計に気恥ずかしくなった。

 そして環は、一度だけ呼吸を整えるように間を置いた。


「じゃあ……私が遠藤さんに聞いていただきたかったことをお話ししますね」


 その声色が少しだけ変わり目に見えない緊張が差し込む。

 忠史は無意識に姿勢を正した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ