(3-3)環との再会
十六時を少し回った新宿南口。
人の波は相変わらず途切れることなく流れ、夕方へ向かう街全体がせわしなく脈打っていた。
その喧騒を見下ろすように、駅前のビル四階にある喫茶店は不思議なほど静かだった。落ち着いた照明、控えめなクラシック音楽、磨かれた木のテーブル。窓際の席に忠史と環は向かい合って座っていた。
先に口を開いたのは忠史だった。
「えっと……お話を聞く前に先に僕から訊いてもいいですか?」
環は小さく微笑み背筋を伸ばしたまま頷く。
「はい、何でしょう?」
「お兄さん……芽来さんは大丈夫ですか?」
そう言いながら忠史はあの日の光景を思い出していた。暗く狭い岩の隙間にあった人影、張りつめた空気、救出後にゆっくりとコップ一杯の水を飲みほした時の表情。
環は静かに答えた。
「はい、ありがとうございます。もうすっかり元気です。右足で踏ん張るとまだ痛みはあるようですが、日常生活はまったく問題ありません」
「そうですか。よかったです」
忠史は胸の奥に溜まっていた小さな緊張がほどけるのを感じた。自然と肩の力も抜ける。
「あの後も、いろんな依頼が立て続けに入っていて……それに、どれもけっこう重い事案ばかりなので、なかなか皆さんのその後のことがよくわからないままで……」
言いながら、自分でも少し言い訳じみていると思った。だが本音でもあった。関わった人たちのその後が気にならないわけではない。けれど、次々に訪れる現場の中で振り返る余裕などなかった。
「そうですよね……大変なお仕事だと思います」
環は責めるでもなく、ただ理解を示すように頷いた。
「でも、誰にでもできることではないし……多くの方々に必要とされる大切なお仕事だろうと思っています」
まっすぐな言葉だった。
忠史は照れくさそうに視線を落とし、コーヒーカップの縁に指を添えた。
「はい……僕もバイトというか見習いみたいなもんですけど、もっともっとしっかり取り組めたらなんて思ってるんですが……とにかくまだ学生だし、普段は東京にいるし……なんだかもどかしい気分なんです」
そこまで言ってから忠史ははっとした。
本来なら、環の相談に乗るためにここへ来たはずだった。なのに気づけば自分の胸の内を語ってしまっている。
「あ、すみません。大村さんにこんなこと言ってしまって」
慌てて頭を下げると環はやわらかく笑った。
「いえ。遠藤さんの素直さというか正直な感じはとても好印象です」
その言い方に社交辞令めいた軽さはなく、忠史は余計に気恥ずかしくなった。
そして環は、一度だけ呼吸を整えるように間を置いた。
「じゃあ……私が遠藤さんに聞いていただきたかったことをお話ししますね」
その声色が少しだけ変わり目に見えない緊張が差し込む。
忠史は無意識に姿勢を正した。




