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(2-30)救出1

 一方、渉と忠史は連なる山々の尾根から少し外れた岩場に立っていた。

 風が強い。木々に囲まれた奥袴狭とは違い遮るものの少ない場所だ。足元はごつごつとした岩ばかりで、乾いた地面にはところどころ砂が浮いている。


「……ここどこだ……」


 思わず呟く。見渡しても山、山、山。どれも似たような稜線で自分がどこにいるのかまったく分からない。


(穂高って……こんな感じなのか?)


 標識も人の気配もない。ただ強めの風と遠くで鳴く鳥の声だけがある。


「大村さーん! めぐるさーん!」


 忠史は声を張り上げた。声は岩に反響して少し遅れて返ってくる。もう一度叫ぼうとするが、逆に渉は静かに辺りを見渡していた。視線がゆっくりと動く。忠史は不用意に声を出すのが場違いな気がして思わず息を潜めた。


 しばらくすると渉が迷いなく歩き出した。忠史が慌てて後を追う。足を滑らせればそのまま下まで落ちかねない岩場、登山靴ではない二人はとにかく慎重に進む。

 すると、目の前に地面が裂けているような岩の割れ目が現れる。幅はそれほど広くないが、奥は暗く底が見えない。


(……もしかして?)


 恐る恐る縁に近づき、膝をついてそっと中を覗き込む。

 徐々に暗闇に目が慣れてくる。


 そして――見えた。


「……あ!」


 思わず声が漏れる。


「人がいます!」


 数メートル下。狭い岩の隙間の中にひとりの男が横たわっている。横たわるというより身体が斜めに引っかかるような状態で動いてはいない。

 渉がすぐに駆け寄り一瞬だけ下を覗き込む。

 すると、次の瞬間ふっと姿が消えた。


「え……」


 下を覗くとそこに渉がいた。と思ったら、次の瞬間には二人とも視界から消えた。


「……!」


 反射的に顔を上げると、忠史のすぐ横に靄がかかり二人が現れた。

 渉はすぐに芽来の状態を確認する。手首に触れ呼吸を確かめる。


「大丈夫です。気を失っているだけです」


 渉が静かに言う。


「……よかった」


 忠史は一気に力が抜けその場にしゃがみ込んだ。ただ、確かに呼吸はあるものの近くで見ると芽来の顔は青白く唇も乾いている。三日も四日も飲まず食わずだったのだろう。当然だ。


「すぐ戻りましょう」


 渉の声にはわずかな緊張が残っていた。


「はい!」


 二人とも芽来に触れ、渉が右手をあげた。


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