表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/72

(2-18)植物のネットワーク

「あれ? そういえば……」


 ハジメがふと何かを思い出したように呟いた。視線は宙を泳いだまま記憶を手繰るように続ける。


「植物は……根っこで周囲とネットワークを持ってる、みたいな説を読んだことがある……な」


 その言葉に忠史は思わず顔を上げる。


「ネットワーク……ですか?」


「うん。木と木のあいだはそこに生えている植物が繋いでて……けっこう離れてても菌糸が連携してるから情報が伝わる、とか」


 淡々と話しながらもハジメの目は少しずつ熱を帯びていく。

 そして突然、椅子を引いて立ち上がった。


「ちょっと待って」


 そのまま部屋の隅に置かれていたノートパソコンの前へ移動し慣れた手つきで開く。指先が素早くキーボードを叩き、画面に次々と情報が映し出されていく。


「植物の……ネットワーク……?」


 忠史は思わず呟く。


(なんだそれ……)


 聞いたこともない話だった。だが、さっきの樹の話と妙に重なってしまう。

 部屋の中にはキーボードを打つ軽い音だけが響く。


 やがて――


「……やっぱりそうだ」


 ハジメが顔を上げた。


「いくつかの大学がそういう研究をしてる」


 その声には確信があった。


「木の根と菌類がつながって情報をやり取りしてるっていう……」


 言いながら画面を指し示す。そこには専門的な言葉が並んでいたが、断片的にでも意味は伝わってくる。


 共有。

 信号。

 ネットワーク。


「……本当に?」


 由紀が少し驚いたように呟く。


「少なくとも“そういう仕組みがある”っていうのは研究されてる。論文も出されている」


 ハジメは頷き、そしてゆっくりと樹の方へ向き直る。


「樹、すごいな!」


 その顔が一気に明るくなる。


「本当に植物と話せるんだな!」


 満面の笑みだった。その反応に樹は少しだけきょとんとした顔をする。だがすぐに褒められて照れくさいようなにこにこ顔になった。


「うん」


 由紀も画面と樹とを交互に見ながら小さく息を吐いた。


「そんな研究があるなんて……」


 驚きはまだ消えていない。けれどその奥に別の感情が芽生えているのが分かる。不安よりも、この子すごいんじゃないか?というそんな思いが少しずつ形を持ち始めていた。


「いっちゃん……」


 由紀は優しく名前を呼ぶ。その声にはどこか誇らしさのようなものが混じっていた。

 一方で、忠史は言葉を失っていた。


(植物のネットワーク……)


 頭の中でさっきの話と結びついていく。


 根っこが教える道。

 見えない繋がり。


 樹が山の中を迷わず進める理由。あの異常な速さ。それがもし本当に“繋がり”によるものだとしたら。


(……なんなんだよ、それ)


 思わず苦笑しそうになる。だが同時に背筋の奥がわずかに震える。


(植物と……根っこと話せるって……どんな力だよ)


 奥袴狭。

 ただの田舎の山ではない。

 もっと深い何かがある場所だという、その一端が見えた気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ