表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/67

(2-10)ウソ

 強い日差しがキャンパスのコンクリートを照り返していた。セミの鳴き声がうるさいくらいに響いている。

 学食の外にあるベンチに、忠史と吉岡、村井の三人は並んで座っていた。授業もひと段落し、夏休み目前のどこか浮ついた空気が流れている。


「で、夏休みどうすんの?」


 ペットボトルのジュースを片手に、吉岡が気軽な調子で聞いた。


「俺? 俺はもう決まってる」


 村井が即答する。


「バイト三昧。フルで入れてる」


「あー、出たよ真面目マン」


 吉岡が笑う。


「いやいや、真面目とかじゃなくてさ」


 村井は肩をすくめた。


「やらないと生活できないし。夏休みってむしろ稼ぎ時だろ」


「まあ、それはわかる」


 吉岡が頷く。


「ちゅうちゅうは?」


 ふいに話を振られる。


「……え?」


 一瞬、反応が遅れた。


「お前だよ、遠藤忠史さん」

「ちゅうちゅうも連日バイトだろ?」


 二人の視線が向く。忠史はほんの一瞬だけ言葉に詰まった。


(どうする……)


 正直に話すわけにはいかない。

 奥袴狭のことも。

 渉のことも。


 たとえこの二人でも、仲が良いからこそ軽く話していい内容じゃない。


「いや……」


 少しだけ視線を逸らす。


「実はさ」


 できるだけ自然に聞こえるように言葉を選ぶ。


「知り合いからリゾートバイトに誘われてて」


「え!?」

「リゾートバイト?」


 二人が同時に食いつく。


「どこ?」


 吉岡が身を乗り出す。


「それが……」


 忠史は苦笑した。


「兵庫で知り合った人なんだけど、バイト先がどこになるのかいまいちよくわかってなくて」


「は?」


 村井が眉をひそめる。


「何それ」


「場所わからないって、どういうことだよ」


「いや、なんか……紹介してもらう感じでさ」


 自分でも苦しい言い訳だと思う。案の定、二人の表情は微妙だった。


「……大丈夫なのか?」


 村井が真顔で言う。


「なんか怪しくないか?」


 吉岡も腕を組む。


「最近あるじゃん、変なバイト」


「あー、ニュースでやってたやつな」


「そうそう、なんかよくわからんとこ連れてかれるやつ」


 忠史は慌てて首を振った。


「いやいや、そういうのじゃないって」


 少し笑ってみせる。


「ちゃんとした人だから。そこは大丈夫」


(……たぶん)


 心の中で小さく付け足す。


「でもまあ……もし変な感じだったらすぐ逃げてくるよ」


「当たり前だろ」


 村井が即座に言う。


「無理すんなよ、マジで」


「今どき何あるかわかんねえからな」


 吉岡も真剣な顔で頷く。

 一瞬だけ三人の間に微妙な空気が流れた。そこで吉岡が空気を変えるように笑う。


「でもさ、リゾートバイトって当たり引くとめっちゃいいらしいよな」


「あー、わかる」


 村井も乗る。


「飯出るし住み込みだし観光地だし」


「な? 勝ち組じゃんそれ」


 吉岡が笑いながら忠史の肩を軽く叩く。


「いいとこだったら紹介しろよ」


「俺らも来年行くからさ」


「いや、来年って……」


 忠史もつられて笑った。


「まあ、良かったらな」


 軽く答える。けれど、胸の奥に少しだけ引っかかるものがあった。


(ウソついててごめん)


 悪いことをしているわけではない。でも、隠していることは確かだった。

 ふと、奥袴狭の景色が頭に浮かぶ。


 あの静かな村。

 あの不思議な空気。


(ちゃんと話せる日が来たら二人にも正直に話すから)


 心の中でそっとつぶやく。


 顔を上げるといつも通りの二人がそこにいる。

 何も知らないいつもの日常。

 その中にいる自分と、もうすぐそこから少し外れていく自分。


 セミの鳴き声がやけに大きく聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ