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(2-8)連絡方法

 忠史は一度深く息を吸い言葉を選びながら話し始めた。

 仁の家を訪ね、そこで奥袴狭という場所のことを少し詳しく聞いたこと。そして、まひと様のことや捲るという能力のことも。


「正直、最初は信じられませんでした。でも……」


 渉のほうを見ながら少し苦笑する。


「あの時も目を開けたら新宿御苑でしたし、今だってこうして目の前に渉さんが現れてくれたわけですし……」


 渉は小さく頷いた。

 急かすこともなくただ静かに耳を傾けている。


「それで……あの村にまた行きたいと思ったんです。いえ、少しじゃなくて……できれば夏休みの間ずっと」


 自分でも無茶なことを言っている自覚はあった。それでも止められなかった。


「あの場所で、村の人たちと同じ時間を過ごしてみたいんです」


 そして、少し間を置いてから現実の話を続ける。


「ただ……やっぱり生活があるのでバイトをしないと家賃も払えませんし……」


 苦笑が漏れる。


「奥袴狭で過ごしながら何か収入を得る方法があれば、なんて……」


 そこで言葉を切る。


「……かなり虫のいい話なんですが」


 部屋に静けさが戻る。

 渉は忠史のベッドに腰を下ろしたまましばらく何も言わなかった。考えているというよりただ受け止めているようなそんな沈黙だった。

 やがて、ゆっくりと顔を上げる。


「大丈夫ですよ」


 穏やかな声だった。

 忠史は思わず顔を上げる。


「え?」


 思わず聞き返してしまう。


「大丈夫って……」


 頭の中で言葉が追いつかない。


(それってどういう意味?)


 何か仕事があるということなのか。それとも別の方法があるのか。聞きたいことはいくつもあるのにうまく言葉にならない。

 そんな忠史を見て渉が続けた。


「夏休みはいつからですか?」


「え……あ、八月一日です」


 少し慌てて答える。

 渉は頷いた。


「わかりました」


 そして、ごく自然に言う。


「では、八月一日に迎えに来ますね」


 それだけ言って立ち上がる。まるで話はもう済んだとでもいうように。


「あ、あの……」


 忠史は思わず声をかけた。

 渉が足を止め振り返る。


「あ、渉さん、ちょっと待ってください」


「はい」


「その……」


 少し迷ってから続ける。


「渉さんの連絡先……聞いてもいいですか?」


 当然の確認だった。だが渉は少し困ったように微笑んだ。


「私は携帯を持っていないんです」


「え?」


 忠史は目を丸くする。


「じゃあ……連絡はどうすれば?」


 現代ではあり得ない状況に戸惑いが隠せない。

 渉は少しだけ考えるように視線を落とし、それから言った。


「そうですね……」


 そして、柔らかく微笑む。


「心の中で私に話しかけてみてください」


「……え?」


 一瞬、意味が理解できなかった。


「心の中で……ですか?」


「はい。声には出さずに」


 まるで当たり前のことのように言う。


「今、試してみてください」


 忠史はしばらく黙っていたが、やがて観念したように目を閉じた。


(えっと……)


 頭の中で言葉を組み立てる。


(届きますか? えー……届きますか、渉さん?)


 少し恥ずかしくなる。


(こんなんでいいのか……?)


 その瞬間、渉が口を開いた。


「えー、届きますか渉さん。えー、こんなんでいいのか、ですね」


 思わず目を開く。


「ええええっ!?」


 思わず声が裏返る。


「今の……!」


 渉を見る。


「聞こえてるんですか!?」


「はい」


 あっさりと頷く。


「すべてではありませんが、意識を向けていただければ届きます」


 忠史はしばらく言葉を失っていた。

 そしてぽつりとこぼす。


「……すごすぎませんか、それ」


 心の底からの感想だった。

 渉は少しだけ困ったように笑った。


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