(2-7)部屋の写真
翌朝。
目を覚ました忠史は枕元のスマートフォンを手に取った。
画面には、新着メールの通知が一件。
差出人は――中村。
一瞬で目が覚め、慌てて画面を開きゆっくりと読み進める。
遠藤忠史 様
状況、理解しました。
申し出は嬉しいですが、私の作業にお手伝いは必要ありません。
その気持ちをそのまま渉さんに相談されてはどうですか?
たぶん、渉さんの仕事でお手伝いできることがあると思います。
ひとまず遠藤さんの今いる部屋の写真を一枚送ってください。
中村
「……え?」
思わず声が漏れた。
内容は予想していたものとはまるで違っていた。断られたとか受け入れられたとか、そういうことではなかった。
「渉さんに相談って……」
忠史は小さくつぶやきつつ、すぐに現実的な疑問が浮かぶ。
(連絡先、知らないんだけど……)
そもそもあのとき会ったきりだ。電話番号も知らなければ、スマートフォンを持っているのかどうかすらわからない。
さらにもう一つ。
「部屋の写真……?」
意味がわからなかった。なぜ今いる部屋の写真が必要なのか、考えても答えは出ない。
しばらく画面を見つめたあと、忠史は小さく肩をすくめた。
「……まあ、いいか」
とりあえず言われた通りにしてみるしかない。
立ち上がり部屋を見渡す。
六畳ほどのワンルーム。
ベッドと机。
小さなキッチン。
積み上がった本。
脱ぎっぱなしの服。
(……あんまり見せたくないけど)
苦笑しながらスマートフォンを構え、部屋全体がなんとなくわかるように数枚撮る。そして、その中から一枚を選びメールに添付した。
「送信っと」
短くつぶやいてボタンを押す。
「……で?」
そのあとどうなるのかまったく想像がつかなかった。
ベッドに腰を下ろし、スマートフォンを握ったまま待つ。
一分。
三分。
五分。
(返信、早いタイプじゃないのかもな)
そう思いかけたそのときだった。
部屋の隅、机と壁の間のわずかな空間にふわりとした違和感が生まれた。
「……ん?」
忠史は顔を上げる。
空気が熱気で歪むような、そんな揺らぎがゆっくりと形を持ち始め白い靄のようなものできた。
「……は?」
すると、その中から一人の青年が現れた。
「……渉さん?」
渉は少しだけ周囲を見回し、忠史に軽く頭を下げた。
「おはようございます」
まるで、普通に玄関から入ってきたかのような口調だった。
忠史はしばらく言葉を失っていた。
そして、ようやく状況に理解が追い付いた。
「え!? えーーーーー!!!???」
渉は困ったように小さく笑う。
「中村さんから連絡があって、部屋の写真を見たので直接来ました」
当たり前のように言う。
だが忠史にとっては当たり前ではない。
「いや、え? いや、えーっ!? いやいやいや……」
理解が追い付いたり離れたり。
自分が十数えて新宿御苑に着いたこと。
仁から聞いた能力の話。
写真を見ただけでそこへ行けるということ。
まひと様。
「……やっぱり……すごいですね」
ようやく何とか口にする。
「何か相談があるということなので。何でも言ってください」
渉がほほえみながら言う。
「あ……ありがとうございます」
まだまだ気持ちが混乱していたが、忠史はゆっくり話し始めた。




