(2-6)相談
夏休みを目前にして忠史はバイトのシフト表とにらめっこしていた。
机の上には大学の予定表と家計のメモ。そしてスマートフォンの画面には今月の残高。どれを見ても答えは一つしかなかった。
(このままでは無理だ……)
仁の話しを聞いて以降、奥袴狭へ行きたい気持ちが日々高まっていた。
あの山の空気。
村の人たちとの穏やかな時間。
そして、まひと様の存在。
もう一度行きたい。それだけじゃなく、できるならことならしばらくあそこで暮らしてみたい。それには夏休みはうってつけだった。だが現実は容赦がなかった。
夏休みの間、まったくバイトをしないとなれば生活が立ち行かなくなる。奥袴狭にいれば確かにお金は使わないだろう。それでも家賃も授業料も待ってはくれない。毎月決まった出費がある。それを埋めるだけの収入がなければ簡単に生活は崩れる。
(親にもこれ以上は頼れないしな……)
忠史は椅子にもたれ天井を見上げた。
しばらく考えたあとスマートフォンを手に取る。
思い浮かんだのは中村ハジメの顔。作家として生計を立てている人。自分でも都合のいい考えだとはわかっていたが、それでも何もせずに諦めるのは違う気がした。
忠史はゆっくりとメールを書き始める。言葉を選びながら何度も書いては消して書き直す。
中村さん
こんにちは。
仁さんとお話しして、どうしても長期間奥袴狭で過ごしてみたくなっています。
ですが、恥ずかしながら貯えもまったくないのでバイトの収入が途切れると生活ができなくなってしまいます。
村で、畑のお手伝いをしたり山で薪を集めたりして、それで村のみなさんに「バイト代ください」というのはあり得ないことだとわかっています。
そこでご相談ですが、中村さんのお手伝いで何かバイトさせていただくことはできるでしょうか?
作家のお仕事自体がよくわかっておらず虫のいい話であることは重々承知しているのですが、村で過ごしたいけど収入も得たいという今の正直な気持ちです。
何かアドバイスをいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。
遠藤忠史
ようやく形になった文章を見つめた。
少し長い。
少し正直すぎるかもしれない。
それでも。
一度深く息を吐き、送信ボタンを押した。
――送信完了。
画面を見つめたまましばらく動けなかった。
(……なんか、めちゃくちゃ自分勝手すぎたかな)
そんな思いが込み上げてくる。
奥袴狭に行きたい。
でもお金も欲しい。
言ってしまえばそれだけの話だが都合が良すぎる。それは自分でもわかっている。
スマートフォンを机に置き両手で顔をこする。
「はあ……」
小さくため息が漏れた。
もし中村から「無理だ」とか「難しい」など、そんな返事が来たらこの計画は諦めるしかない。せいぜい一週間か数日か、現実的に考えればそれが限界だ。
(まあ……そうだよな)
自分に言い聞かせるようにうなずく。
それでも、心のどこかでまだ期待している自分がいた。




