表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/67

(26)忠史の涙

 そこまで話を聞いたときだった。忠史は胸の奥が急にいっぱいになった。息がうまく吸えない。気づくと涙がこぼれていた。一度あふれるともう止まらず、ぽろぽろと次から次へと涙が落ちる。


「……っ」


 慌てて手で拭こうとするが全然追いつかない。もう泣けて泣けてどうしようもなかった。

 その様子を見て仁が慌てる。


「え?」


 身を乗り出す。


「忠史くん、どうした?」


「大丈夫?」


 富美代も驚いた顔になる。


「あらあら」


 すぐに立ち上がり棚から箱ティッシュを取ってくる。


「はい、これ」


 テーブルの上にそっと置いた。忠史はティッシュを取りながらも涙が止まらず、肩が小さく震えている。しばらく誰も何も言わなかった。

 やがて、震える声で言った。


「僕……」


 一度言葉が詰まる。


「……わかります」


 仁が首をかしげる。


「え?」


 忠史は涙を拭きながら続けた。


「というか……わかりました。たぶん」


 仁が聞き返す。


「わかった?」


 忠史はうなずく。そして、ゆっくり言った。


「その時の……渉さんの気持ち」


 また涙があふれる。


「能力も継いだけど……」


 息を整えながら続ける。


「たぶん、お父さんが帰れなかった理由もわかったんですよね?」


 仁の表情が変わる。

 忠史は言葉を探しながら続けた。


「たぶん……まひと様の経験も同時に継ぐみたいな……そういうことですよね?」


 その言葉を聞いた瞬間、仁の目が大きく開いた。

 しばらく言葉が出ない。

 そして、ゆっくりうなずいた。


「……その通り」


 静かに言う。


「まさに、いま忠史くんが言った通りだよ」


 忠史は涙を拭きながら聞いている。

 仁は続けた。


「翌日ね、渉が教えてくれたんだ」


 少し声が低くなる。


「お父さんが死んだって」


 リビングが静まり返る。

 仁は遠くを見るような目になった。


「たぶんね、その状況とか……全部見えたんだと思う」


 ゆっくりと言葉を選ぶ。


「そこまで詳しく話してくれたわけじゃない」


 苦く笑う。


「こっちもさ……そんなこといろいろ聞けないし」


 少し間が空く。

 仁は改めて忠史を見る。


「……すごいね、忠史くん」


 静かに言う。


「わかるんだ」


 しばし沈黙。

 誰も口を開かない。

 富美代も凛も子どもたちも、みんな黙っていた。


 仁が静かに続ける。


「その日からね」


 少し息をつく。


「渉はもう……子どもじゃなくなったんだ」


 忠史が顔を上げる。


「見た目は小学生。まだ十歳の子ども」


 仁は首を横に振る。


「でも……中身はもう大人だった」


 ゆっくり言う。


「今の渉と同じだったんだよ。本当に」


 仁が話している間も忠史の涙は止まらなかった。ティッシュはもう何枚も丸くなってテーブルの上に置かれている。

 それでも忠史は、静かに泣きながら話を聞き続けていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ