(26)忠史の涙
そこまで話を聞いたときだった。忠史は胸の奥が急にいっぱいになった。息がうまく吸えない。気づくと涙がこぼれていた。一度あふれるともう止まらず、ぽろぽろと次から次へと涙が落ちる。
「……っ」
慌てて手で拭こうとするが全然追いつかない。もう泣けて泣けてどうしようもなかった。
その様子を見て仁が慌てる。
「え?」
身を乗り出す。
「忠史くん、どうした?」
「大丈夫?」
富美代も驚いた顔になる。
「あらあら」
すぐに立ち上がり棚から箱ティッシュを取ってくる。
「はい、これ」
テーブルの上にそっと置いた。忠史はティッシュを取りながらも涙が止まらず、肩が小さく震えている。しばらく誰も何も言わなかった。
やがて、震える声で言った。
「僕……」
一度言葉が詰まる。
「……わかります」
仁が首をかしげる。
「え?」
忠史は涙を拭きながら続けた。
「というか……わかりました。たぶん」
仁が聞き返す。
「わかった?」
忠史はうなずく。そして、ゆっくり言った。
「その時の……渉さんの気持ち」
また涙があふれる。
「能力も継いだけど……」
息を整えながら続ける。
「たぶん、お父さんが帰れなかった理由もわかったんですよね?」
仁の表情が変わる。
忠史は言葉を探しながら続けた。
「たぶん……まひと様の経験も同時に継ぐみたいな……そういうことですよね?」
その言葉を聞いた瞬間、仁の目が大きく開いた。
しばらく言葉が出ない。
そして、ゆっくりうなずいた。
「……その通り」
静かに言う。
「まさに、いま忠史くんが言った通りだよ」
忠史は涙を拭きながら聞いている。
仁は続けた。
「翌日ね、渉が教えてくれたんだ」
少し声が低くなる。
「お父さんが死んだって」
リビングが静まり返る。
仁は遠くを見るような目になった。
「たぶんね、その状況とか……全部見えたんだと思う」
ゆっくりと言葉を選ぶ。
「そこまで詳しく話してくれたわけじゃない」
苦く笑う。
「こっちもさ……そんなこといろいろ聞けないし」
少し間が空く。
仁は改めて忠史を見る。
「……すごいね、忠史くん」
静かに言う。
「わかるんだ」
しばし沈黙。
誰も口を開かない。
富美代も凛も子どもたちも、みんな黙っていた。
仁が静かに続ける。
「その日からね」
少し息をつく。
「渉はもう……子どもじゃなくなったんだ」
忠史が顔を上げる。
「見た目は小学生。まだ十歳の子ども」
仁は首を横に振る。
「でも……中身はもう大人だった」
ゆっくり言う。
「今の渉と同じだったんだよ。本当に」
仁が話している間も忠史の涙は止まらなかった。ティッシュはもう何枚も丸くなってテーブルの上に置かれている。
それでも忠史は、静かに泣きながら話を聞き続けていた。




