表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/73

(23)ピザを食べながら1

 富美代がふっと笑って言った。


「いったん一休みしてお昼にしましょうか」


 仁も同意するようにうなずく。


「そうだね。ちょっと話が重くなってきたし」


 富美代はスマホを取り出した。


「ピザでもとりましょう」


 翼と詩が同時に声を上げる。


「やったー! ピザ!」


 凛も笑いながら言う。


「久しぶりじゃない?」


 富美代は手早く注文を済ませながら言った。


「この子たちも奥村には何度も行ってますから、ある程度こういう話はしてるんです」


 仁が続ける。


「でも、こんなふうにちゃんと話したのは初めてかな」


 子どもたちも少し誇らしそうな顔をしている。

 忠史はまだ混乱していた。だが、同時にどこか納得もしていた。だから一瞬で新宿御苑だったのかと、あの日の出来事が少しずつ現実として形を持ち始めている。


 富美代が立ち上がる。


「こっちで食べましょう」


 一同はリビングからキッチンのダイニングスペースへ移動した。テーブルの上を軽く片付け皿やコップを並べる。

 翼が冷蔵庫を開けて言う。


「ジュースあるよー」


「勝手に出さないの」


 凛が軽くたしなめる。

 何気ない会話。忠史も皿を並べながら少し肩の力が抜けていることに気づいた。


 数十分後、インターホンが鳴る。


「来た!」


 翼が飛び出していく。

 玄関から元気な声。


「ピザー!」


 箱がテーブルに並べられ、ピザの香りがふわっと広がる。それにチキンやポテト、サラダも並ぶ。子どもたちはもう待ちきれない様子だ。


「いただきます」


 みんなで手を合わせる。ピザを食べ始めると空気はすっかり和んでいた。

 仁は一切れ手に取りながら言った。


「そういえば、さっきの話の続きなんだけど」


 忠史も耳を傾ける。


「渉の子ども時代の話になるかな」


 仁は少し笑った。


「渉は僕の十コ下なんだ」


 翼が驚く。


「そうなんだ」


「うん。僕が小学四年生のときに生まれた」


「へえー」


 凛が感心した声を出す。


「村って子どもが少ないでしょ」


 仁はピザを一口かじる。


「だから赤ちゃんが生まれるとみんな大騒ぎ」


 少し懐かしそうに笑う。


「一馬くんと優香ちゃんと三人でしょっちゅう奥村家に行ってた」


 凛が聞く。


「赤ちゃん見に?」


「そう」


 仁は笑う。


「抱っこしたりあやしたり」


 少し肩をすくめて続ける。


「でも、そのうち一馬くんも優香ちゃんも忙しくなってきて……部活だのなんだのと……結局僕だけがよく行くようになった」


 忠史は黙って聞いていた。


「それに、高校になると二人とも県外に出ちゃったしね……ますます僕が渉と一緒にいる時間が増えた感じ」


 仁はピザの箱を少し寄せる。


「僕が二十歳になった頃かな」


 少し思い出すように言った。


「渉はまだ小学生だったんだけど」


 忠史が聞き返す。


「小学生……」


「そう」


 仁はうなずく。


「その頃、渉のお父さんがね……さっき話した“捲り方”を教えてくれたんだ」


 忠史は思わず姿勢を正す。


「もちろん村の人間はある程度はみんな知ってる。でもその時は、あらためて“まひと様直々に”って感じだった」


 ピザを食べながら話は続く。

 仁は少し笑った。


「僕としてはね、二十歳になったからちゃんと教えてくれるのかなって思ってた。次のまひと様の話かなって」


 忠史は静かに聞いている。


「でも、そこに渉も一緒に座っててさ。まだ小学生なのに」


 翼が笑う。


「小学生なのに」


「そう」


 仁も笑う。


「その時は一馬くんも優香ちゃんももう村にいなかったし」


 仁は少し照れくさそうに笑った。


「だからさ……次のまひと様は自分かもしれないって思ったんだ。それで結構真剣に練習したんだよ」


 右手を上げる。


「こうやって、絵の端を掴む感じで」


 空中で指を動かす。


「で、こう」


 手を振る。


「捲る」


 仁は苦笑した。


「まあ、そりゃできないよね」


 翼が笑う。


「できないのかー」


「うん」


 仁も笑う。


「でもね」


 少し声の調子が変わる。


「渉と二人でしばらく練習してたんだけど……」


 仁はゆっくり言った。


「直々に教えてもらってから数ヶ月くらい経ったある日」


 手を止める。


「渉が急に言ったんだ。あ! 端が掴めた!って」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ