(23)ピザを食べながら1
富美代がふっと笑って言った。
「いったん一休みしてお昼にしましょうか」
仁も同意するようにうなずく。
「そうだね。ちょっと話が重くなってきたし」
富美代はスマホを取り出した。
「ピザでもとりましょう」
翼と詩が同時に声を上げる。
「やったー! ピザ!」
凛も笑いながら言う。
「久しぶりじゃない?」
富美代は手早く注文を済ませながら言った。
「この子たちも奥村には何度も行ってますから、ある程度こういう話はしてるんです」
仁が続ける。
「でも、こんなふうにちゃんと話したのは初めてかな」
子どもたちも少し誇らしそうな顔をしている。
忠史はまだ混乱していた。だが、同時にどこか納得もしていた。だから一瞬で新宿御苑だったのかと、あの日の出来事が少しずつ現実として形を持ち始めている。
富美代が立ち上がる。
「こっちで食べましょう」
一同はリビングからキッチンのダイニングスペースへ移動した。テーブルの上を軽く片付け皿やコップを並べる。
翼が冷蔵庫を開けて言う。
「ジュースあるよー」
「勝手に出さないの」
凛が軽くたしなめる。
何気ない会話。忠史も皿を並べながら少し肩の力が抜けていることに気づいた。
数十分後、インターホンが鳴る。
「来た!」
翼が飛び出していく。
玄関から元気な声。
「ピザー!」
箱がテーブルに並べられ、ピザの香りがふわっと広がる。それにチキンやポテト、サラダも並ぶ。子どもたちはもう待ちきれない様子だ。
「いただきます」
みんなで手を合わせる。ピザを食べ始めると空気はすっかり和んでいた。
仁は一切れ手に取りながら言った。
「そういえば、さっきの話の続きなんだけど」
忠史も耳を傾ける。
「渉の子ども時代の話になるかな」
仁は少し笑った。
「渉は僕の十コ下なんだ」
翼が驚く。
「そうなんだ」
「うん。僕が小学四年生のときに生まれた」
「へえー」
凛が感心した声を出す。
「村って子どもが少ないでしょ」
仁はピザを一口かじる。
「だから赤ちゃんが生まれるとみんな大騒ぎ」
少し懐かしそうに笑う。
「一馬くんと優香ちゃんと三人でしょっちゅう奥村家に行ってた」
凛が聞く。
「赤ちゃん見に?」
「そう」
仁は笑う。
「抱っこしたりあやしたり」
少し肩をすくめて続ける。
「でも、そのうち一馬くんも優香ちゃんも忙しくなってきて……部活だのなんだのと……結局僕だけがよく行くようになった」
忠史は黙って聞いていた。
「それに、高校になると二人とも県外に出ちゃったしね……ますます僕が渉と一緒にいる時間が増えた感じ」
仁はピザの箱を少し寄せる。
「僕が二十歳になった頃かな」
少し思い出すように言った。
「渉はまだ小学生だったんだけど」
忠史が聞き返す。
「小学生……」
「そう」
仁はうなずく。
「その頃、渉のお父さんがね……さっき話した“捲り方”を教えてくれたんだ」
忠史は思わず姿勢を正す。
「もちろん村の人間はある程度はみんな知ってる。でもその時は、あらためて“まひと様直々に”って感じだった」
ピザを食べながら話は続く。
仁は少し笑った。
「僕としてはね、二十歳になったからちゃんと教えてくれるのかなって思ってた。次のまひと様の話かなって」
忠史は静かに聞いている。
「でも、そこに渉も一緒に座っててさ。まだ小学生なのに」
翼が笑う。
「小学生なのに」
「そう」
仁も笑う。
「その時は一馬くんも優香ちゃんももう村にいなかったし」
仁は少し照れくさそうに笑った。
「だからさ……次のまひと様は自分かもしれないって思ったんだ。それで結構真剣に練習したんだよ」
右手を上げる。
「こうやって、絵の端を掴む感じで」
空中で指を動かす。
「で、こう」
手を振る。
「捲る」
仁は苦笑した。
「まあ、そりゃできないよね」
翼が笑う。
「できないのかー」
「うん」
仁も笑う。
「でもね」
少し声の調子が変わる。
「渉と二人でしばらく練習してたんだけど……」
仁はゆっくり言った。
「直々に教えてもらってから数ヶ月くらい経ったある日」
手を止める。
「渉が急に言ったんだ。あ! 端が掴めた!って」




