(22)まひと様の能力
「じゃあ、まひと様の能力について話すね」
子どもたちも自然と背筋を伸ばす。
仁はゆっくりと右手を前に出した。
「まひと様はね」
空中に見えない何かを示すように手を動かす。
「目を動かさず、そのまま目の前に見えている景色を一枚の絵に見立てるんだ」
仁は続けた。
「そして、その絵を」
右手をゆっくり斜めに振る。
「捲る」
忠史の胸が小さくざわつく。
「するとね」
仁は静かに言う。
「捲った先に行きたい場所の景色が現れる。超能力的な言い方をすれば瞬間移動とかテレポーテーションに近いかな」
少し苦笑する。
「なかなか信じられないと思うけど」
忠史を見る。
「これが現実。実際に起きていることなんだ」
リビングに静かな空気が流れる。
仁は続けた。
「それからね」
手を軽くテーブルに置く。
「まひと様が触れているものは、人でも物でも一緒に次の場所に行ける」
忠史が小さくつぶやく。
「触れているもの……」
「そう」
仁はうなずく。
「だから複数人を連れて移動する時は車が便利なんだ」
子どもたちがうなずく。
仁は説明を続ける。
「みんなは車に乗る。そして、まひと様は車の外に立つ」
左手を車に触れるような仕草でテーブルに置く。
「片手は車に触れて」
もう一方の手を前に出す。
「もう片方の手で目の前の景色を捲る」
手をゆっくり振る。
「すると」
仁は静かに言った。
「一瞬でみんな移動できる」
忠史の背中にあの日の感覚がよみがえる。空気が変わったようなあの一瞬。
「で、ここからが大事なところなんだけど」
少し声の調子が変わる。
「目がつぶれる、という話」
忠史は自然と身を乗り出していた。
仁は指先で空間を指す。
「まひと様が見ている景色と自分が見ている景色は当然違う。同じ場所に立っていても、視界に入る範囲は人それぞれ違うからね」
忠史はうなずく。
「だから、目を開けたままだとどうなるか」
少しだけ間を置く。
「まひと様が捲った先に自分の視界だけがついていけない」
子どもたちも黙って聞いている。
「つまり、目だけが元の場所に置いていかれる」
翼が思わず顔をしかめた。
「だから、目を開けてはいけない」
凛が小さくつぶやく。
「だから布……」
「そう」
仁は優しくうなずいた。
「大人はある程度理解できる。でも子どもはつい見ちゃうかもしれない。だから布を被せて視界を完全に遮る。それが黒い布の理由」
忠史は黙って聞いていた。驚いてはいる。でも、不思議と否定する気持ちは湧いてこない。あの日、自分は確かに体験したのだから。
仁は少し声を落とした。
「奥田のおじさんはね……」
少しだけ目を伏せる。
「もちろんそのことは知っていた。でも、うっすら目を開けてしまったらしい」
部屋の空気が少し重くなる。
「残念ながら、それで視力がなくなった」
さらに続ける。
「それにね……実はもう一つ理由があったんじゃないかと思う」
忠史が顔を上げる。
「渉のお父さんがまひと様になる、その前のまひと様は奥田のおじさんのお父さんだったんだ」
忠史が目を見開く。
(能力が代々継がれてる? いや、移っていくっていうこと……?)
仁は続けた。
「つまり、奥田のおじさんは次のまひと様になるかもしれない立場だった」
少し間を置く。
「でも、力は渉のお父さんに移った」
仁は小さく息をついた。
「だから……どんな感じなのかこの目で見てみたい。そう思ったのかもしれないね」
仁はそこで言葉を止めた。
そして、ふーっと長い息を吐く。
「……」
少しだけ背もたれにもたれた。
「ごめん。ちょっと一息つかせて」
仁はそう言って湯のみを手に取った。




