表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/70

(22)まひと様の能力

「じゃあ、まひと様の能力について話すね」


 子どもたちも自然と背筋を伸ばす。

 仁はゆっくりと右手を前に出した。


「まひと様はね」


 空中に見えない何かを示すように手を動かす。


「目を動かさず、そのまま目の前に見えている景色を一枚の絵に見立てるんだ」


 仁は続けた。


「そして、その絵を」


 右手をゆっくり斜めに振る。


「捲る」


 忠史の胸が小さくざわつく。


「するとね」


 仁は静かに言う。


「捲った先に行きたい場所の景色が現れる。超能力的な言い方をすれば瞬間移動とかテレポーテーションに近いかな」


 少し苦笑する。


「なかなか信じられないと思うけど」


 忠史を見る。


「これが現実。実際に起きていることなんだ」


 リビングに静かな空気が流れる。

 仁は続けた。


「それからね」


 手を軽くテーブルに置く。


「まひと様が触れているものは、人でも物でも一緒に次の場所に行ける」


 忠史が小さくつぶやく。


「触れているもの……」


「そう」


 仁はうなずく。


「だから複数人を連れて移動する時は車が便利なんだ」


 子どもたちがうなずく。

 仁は説明を続ける。


「みんなは車に乗る。そして、まひと様は車の外に立つ」


 左手を車に触れるような仕草でテーブルに置く。


「片手は車に触れて」


 もう一方の手を前に出す。


「もう片方の手で目の前の景色を捲る」


 手をゆっくり振る。


「すると」


 仁は静かに言った。


「一瞬でみんな移動できる」


 忠史の背中にあの日の感覚がよみがえる。空気が変わったようなあの一瞬。


「で、ここからが大事なところなんだけど」


 少し声の調子が変わる。


「目がつぶれる、という話」


 忠史は自然と身を乗り出していた。

 仁は指先で空間を指す。


「まひと様が見ている景色と自分が見ている景色は当然違う。同じ場所に立っていても、視界に入る範囲は人それぞれ違うからね」


 忠史はうなずく。


「だから、目を開けたままだとどうなるか」


 少しだけ間を置く。


「まひと様が捲った先に自分の視界だけがついていけない」


 子どもたちも黙って聞いている。


「つまり、目だけが元の場所に置いていかれる」


 翼が思わず顔をしかめた。


「だから、目を開けてはいけない」


 凛が小さくつぶやく。


「だから布……」


「そう」


 仁は優しくうなずいた。


「大人はある程度理解できる。でも子どもはつい見ちゃうかもしれない。だから布を被せて視界を完全に遮る。それが黒い布の理由」


 忠史は黙って聞いていた。驚いてはいる。でも、不思議と否定する気持ちは湧いてこない。あの日、自分は確かに体験したのだから。


 仁は少し声を落とした。


「奥田のおじさんはね……」


 少しだけ目を伏せる。


「もちろんそのことは知っていた。でも、うっすら目を開けてしまったらしい」


 部屋の空気が少し重くなる。


「残念ながら、それで視力がなくなった」


 さらに続ける。


「それにね……実はもう一つ理由があったんじゃないかと思う」


 忠史が顔を上げる。


「渉のお父さんがまひと様になる、その前のまひと様は奥田のおじさんのお父さんだったんだ」


 忠史が目を見開く。


(能力が代々継がれてる? いや、移っていくっていうこと……?)


 仁は続けた。


「つまり、奥田のおじさんは次のまひと様になるかもしれない立場だった」


 少し間を置く。


「でも、力は渉のお父さんに移った」


 仁は小さく息をついた。


「だから……どんな感じなのかこの目で見てみたい。そう思ったのかもしれないね」


 仁はそこで言葉を止めた。

 そして、ふーっと長い息を吐く。


「……」


 少しだけ背もたれにもたれた。


「ごめん。ちょっと一息つかせて」


 仁はそう言って湯のみを手に取った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ