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(21)仁の子供時代2

 仁は少しだけ姿勢を変え視線を天井へ向けた。


「ある時ね、学校でみんなと車の話になったんだよ」


 翼が興味津々で身を乗り出す。


「車の話?」


「うん。どんな車に乗ってるとかそういうやつ」


 仁は少し笑って続ける。


「それで、僕が何気なく“夏はあの黒い布が暑いよね”って言ったら、何のこと?って顔されて」


 肩をすくめる。


「最初は冗談だと思ったんだよ。でも、よくよく聞いたら誰もそんな布なんて被ってないって言うんだ」


 忠史はひと言も聞き漏らすまいという思いでしっかり耳を傾けている。


「で、後で一馬くんと優香ちゃんに聞いたんだ。そしたら二人とも普通に言うんだ。見ちゃいけないから布を被るんだよって」


 リビングが静かになる。

 忠史は思わず聞き返した。


「見ちゃいけない……?」


「そう」


 仁は静かにうなずく。


「じゃあ何を見ちゃいけないのかって話になるよね」


 仁はそこで言葉を止めた。そして、ふっと苦いような笑みを浮かべる。


「その前にね……先に奥田のおじさんの話をしておく」


 忠史が小さくうなずく。


「優香ちゃんのお父さんですね」


「そう」


 仁の声が少し落ち着いた調子になる。


「奥田のおじさんはね、目が見えないんだ」


 翼が思わず言う。


「えっ……」


「完全に真っ暗ってわけじゃないらしいんだけど」


 仁は指先で少し空をなぞる。


「うっすら光が分かるくらい。ほとんど視力はゼロに近い」


 忠史は黙って聞いている。

 仁は続けた。


「なんでそうなったかというと……」


 少しだけ間を置く。


「まひと様の能力を見てしまったからなんだ」


 部屋の空気が一瞬重くなる。

 凛が小さな声で言う。


「見ちゃうと……そうなるの?」


 仁はゆっくりうなずいた。


「らしい」


 富美代が静かに子どもたちの様子を見ている。

 仁は続けた。


「だから優香ちゃんは親から何度も聞かされてたんだ。だからちゃんと分かってた」


 忠史は腕を組みながら聞いていた。


「僕もね、親からそれっぽいことを言われた記憶はあるんだ。でも子どもだったし気にしてなかったというか忘れてたというか」


 少し笑う。


「一馬くんや優香ちゃんが布を被るから僕も被る。それくらいの感覚だった」


 そして、仁は心を決めたように忠史の目を見つめた。



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