(5-34)真の太陽の子
静かな空気の中で、ヒサ子がふと思い出したように口を開いた。
「そういえばねぇ……」
みんなの視線がヒサ子へ向く。
「お父さんが、みんなから『真人様』って呼ばれてたある時、ぼそっと『ホントは違うんだけどな』って言ったことがあったんだよ」
そう言って、少し遠くを見るような目になる。
「え? そうなんですか?」
忠史が思わず身を乗り出した。
ヒサ子はゆっくりとうなずく。
「でもねぇ、その時は別に大したことだと思わなくてそのまま聞き流しちゃったんだけど……今思えば、本当は『まひと』じゃなくて『まひこ』なんだって言いたかったのかもしれないねぇ」
部屋の空気がさらに静かになる。
ハジメが腕を組み、考え込むように言った。
「つまり……もともとは『まひこ』という呼び名だった。それが長い年月の口伝えの中で『まひと』へ変化してしまったということなんでしょうか」
「ええ。私はそのように考えています」
渉は静かに答えた。
忠史はしばらく黙っていたが、ふと思いついたように尋ねた。
「渉さん、漢字はわかるんですか?」
「はい」
渉は迷うことなく答えた。
「真の日の子と書いて『真日子』です」
忠史はその文字を頭の中に思い浮かべた。
真の。
日の。
子。
「真の太陽の子です」
渉が静かに言う。
「真の太陽の子……」
忠史はつぶやくように繰り返した。
その言葉には言いようのない重みがあった。
部屋の誰も何も言わない。
ただ、それぞれが「真日子」という文字を心の中で見つめていた。
しばらくして、ハジメが静かに口を開いた。
「そういう『○○ひこ』という名前は、古事記や日本書紀にも数多く出てきますよね。彦、日子、比古……表記はいろいろありますが、古代の神や王族の名前には非常に多い」
少し興奮を抑えきれない様子で続ける。
「これはぜひ調べてみたいですね。『真日子』という言葉が文献に残っていないか、あるいは近い名前がないか」
「そうですね、お願いします」
渉は穏やかにうなずいた。
ハジメも深くうなずき返した。
「ええ。できる限り調べてみます」
再び部屋に静寂が訪れる。
その沈黙を、渉がやさしく破った。
「それで……」
忠史へ視線を向ける。
「光に包まれたあと、どうなったんですか? その先を聞かせてください」
忠史の頭の中は「真日子」でいっぱいになっていたが、渉の問いかけでようやく我に返った。




