(5ー24)細い脇道
昼食を終え、一行を乗せた車は再び真庭市の山間部へ向かって走り出した。
車内では、美樹が道の駅で買ったお土産の袋をのぞき込み「これ美味しそう」「帰ったら食べよう」などと他愛ない話をしている。樹も窓の外を眺めながら、見慣れない景色に目を輝かせていた。
だが、忠史だけは会話に加わりながらも心ここにあらずだった。
――まひこ様。
道の駅で聞こえたあのおばあさんの声。
確かに自分へ向けられていた。そして、その呼び名は初詣で耳にしたものと同じだった。
(どうして"まひと"じゃなくて"まひこ"なんだ……)
考えれば考えるほどわからない。
能力が発現してからまだ一日も経っていない。次から次へと起こる出来事に頭も心も追いついていなかった。
車はやがて真庭市の中心街へ入り、しばらく市街地を走る。大型スーパーやホームセンター、飲食店などが並び、人通りもそこそこある。しかし、その街並みを抜けると景色は一変した。道路は緩やかな上り坂となり、両脇を深い山々が包み込むようになる。
民家もぽつりぽつり。
やがて一軒も見えなくなり、聞こえるのはタイヤが路面を踏む音だけだった。
道の両脇には堆雪もみられる。
「やっぱりこの辺までくるとけっこう雪が積もるんだ……まさに山に来たって感じになってきたね」
忠史が窓の外を見ながらつぶやく。
「一応、道は合ってると思うんだけど……」
運転席の浩子はナビと前方を交互に見比べながら苦笑した。
「お店や民家がなくなってくると、それはそれで不安になってくるわよね。ほんとにこの先で合ってるのかしらって」
「なんか冒険みたい」
美樹はどこか楽しそうだ。
「山探検!」
樹も嬉しそうに笑う。
さらに十分ほど走ると、左手に一本の細い脇道が現れた。舗装はされているものの、ところどころ砂利が浮き落ち葉も積もっている。
林業用なのか、普段あまり車が通っていないことが一目でわかる道だった。
その瞬間だった。
「あ、おばちゃん! こっちの道に行って」
樹が前を指差した。
「え?」
浩子は思わず速度を落とす。
「こういうところ入っていって大丈夫かなぁ。途中でUターンできなくなったら困るし……」
樹は迷いなくうなずく。
「うん。こっちだよ」
その声には、不思議なくらい確信があった。
忠史も樹の横顔を見る。
黒い玉はまだ巾着の中に入ったままだ。
それでも何かを感じ取っているようだった。




