(5-23)道の駅2
樹は箸を止め、少し考えてから答えた。
「うん。楽しい」
そして、ぽつりと続けた。
「でも、あんまり行けないの」
「え?」
浩子が目を丸くする。
「あんまり行けないって?」
「パパのパソコンで見るの」
「えっ?」
今度は忠史が驚いた。
「出石の小学校じゃないの?」
実は忠史もそのことは初めて知った。
樹は首を横に振る。
「違うよ。えびす」
「恵比寿?」
美樹が思わず大きな声を上げた。
「えーーーっ! 東京の恵比寿? いっちゃん、恵比寿の小学校なの!? 都会っ子じゃん!」
樹は照れくさそうに笑った。
「うん。パパがね、ここだと毎日行かなくてもいいからって。でも、お勉強はしないとだからパソコンで先生とお話しするの」
「へぇ……」
浩子は感心したようにうなずく。
「今はそういう学校もあるのね……すごい時代になったわ」
樹が続ける。
「たまに渉くんが連れて行ってくれるの」
「渉くん?」
浩子が首をかしげる。
忠史が少し言いにくそうに説明する。
「ああ、うん……樹と同じ村に住んでる人。オレも……本当にいろいろお世話になってる人なんだ……」
「そうなの」
浩子はひとまず納得したようにうなずいた。
どんな人なのかは気になる。だが、それ以上は聞かなかった。忠史にも自分がまだ話せない事情もあるのだろうと、そんなふうにも感じていた。
穏やかな昼食の時間。
笑い声があちこちから聞こえる。
その時だった。ふいに、忠史の意識へ直接声が流れ込んできた。
(ああ……まひこ様……)
かすれた年配の女性の声。
忠史の動きが止まる。
(あけましておめでとうございます)
ゆっくりとした口調。
その声には、深い感謝と畏れが滲んでいた。
(ありがたや……)
少し間を置いて、
(ありがたや……)
さらにもう一度。
(ありがたや……)
忠史はゆっくり顔を上げ、さりげなく周囲に視線を向ける。
道の駅の入口近く、右肘にエコバッグを提げた一人のおばあさんがこちらへ向かって静かに手を合わせていた。ただ、その目は閉じられている。しかし確かに自分へ向かって祈っているようだった。
(あのおばあさん……)
胸の鼓動が少し速くなる。
(今……まひこ様って言ったよな……)
また「真人」ではない。
神社の宮司もそうだった。
そして今、この見知らぬおばあさんも。
(まひと、じゃなくて……まひこ……)
忠史は胸の奥でその響きを反芻する。
その一文字の違いが、何を意味するのか。
答えはまだ、どこにも見えていなかった。




