(5-19)みよりさん2
浩子は記憶をたどる。
忠明が何気なく話していたこと。
遺品を整理した時――。
いくつもの記憶が頭の中をゆっくり巡る。
そして突然、その一つが鮮明によみがえった。
「あっ! 思い出した!」
思わず声を上げる。
「お父さん、その玉は『みよりさんから託された』って言ってたかも!」
「えっ!」
今度は美樹が身を乗り出した。
「そうなの?」
「そうそう……うん、確かに言ってたと思う。『みよりさん』って」
「誰なの、その人?」
美樹は興味津々だ。
「知らないわよ」
浩子はちょっとムスッとして苦笑した。
「そんな私の知らない女の人から託されたものを、あの人があんなに大事そうにしてるからね……なんだかちょっと腹が立ったのよ」
車内は少し微妙な空気になるが、美樹はさらに興味津々。
「でも浮気とかそういう様子でもなさそうだったし……そのうち気にするのをやめようとか思ってて……気が付いたらすっかり忘れてたのよ」
「みよりさんって男の人だよ」
忠史が静かに言った。
浩子と美樹が同時に振り向く。
「え?」
その会話へ、今度は樹も入ってきた。
「髪の毛が白いおじいちゃん?」
忠史は驚いたように樹を見る。
「え? 樹は見えたの?」
「ううん、見えない」
樹は首を横に振る。
少し考えてから笑う。
「声だけ。なんか園じいみたいな声だなぁって思った」
「そう、白髪のおじいさんだよ……」
忠史がそう言うと、浩子が思わず声を上げた。
「えぇっ!? みよりさんっておじいさんなの?」
「じゃあ、お父さん浮気してなかったんだ」
美樹が笑う。
「よかったね、お母さん」
「もう」
浩子も苦笑するしかなかった。
しかし、すぐに真顔へ戻る。
「それより……なんでそんなことがわかるの?」
忠史は返事に詰まった。
自分でもどう説明すればいいのかわからない。
「いや……」
少し考えて言葉を探す。
「何て言ったらいいか……頭の中に自然と浮かんできた感じなんだ」
それが一番近い表現だった。
そして、少しの沈黙のあと忠史はもう一つ思い出したように続ける。
「あとね『みより』って名前じゃない。三つの縁って書いて『三縁』さん。苗字だよ」
「えっ? 苗字なの?」
浩子は目を丸くした。
「そんな女の人の名前みたいな苗字……」
「いやいや、それは全国の三縁さんに失礼だから」
車内に笑いが広がる。
けれどその笑いの奥では新しい謎がまた一つ、静かに姿を現していた。




