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(5-18)みよりさん1

(聞こえた……)


 いや。

 聞こえたというより流れ込んできた。


 浩子が今この瞬間考えていること。

 それが、そのまま自分の中へ入ってきた。


(オレが意識を向けると……相手の思っていることが伝わってくる……)


 巾着を握る手に自然と力が入る。

 それは便利な能力などではなかった。むしろ、人の心へ無断で踏み込んでしまうような感覚だった。


 昨日まで知らなかった世界。

 昨日まで決して届かなかった場所。

 その扉が開いてしまったことに、忠史は言いようのない戸惑いを覚えていた。


 ただ、戸惑いは消えないけれど、それ以上に能力を使う感覚を知りたいという気持ちも大きくなってきた。

 忠史は静かに息をつく。


(そういえば……)


 初詣へ出かける前のことを思い出す。

 樹は黒い玉を抱えながら、誰かと話すように言葉を交わしていた。


 ――託してよかった。

 ――隠岐の島。


 そんな言葉を確かに聞き取っていた。


(ということは……)


 忠史は膝の上の巾着へ視線を落とす。

 黒い玉は中に入ったままだ。

 取り出すことなく、その存在へ静かに意識を向けてみる。


 しばらく待つ。

 車のエンジン音だけが一定のリズムを刻んでいる。

 特に何も聞こえない。


(やっぱり……)


 そう思いかけた、その時だった。


⦅……託して……よかった⦆


 かすかな声。

 風に乗って届くような、小さな響き。


(……!)


 忠史は思わず息をのんだ。


(聞こえた)


 もう一度、意識を深く沈める。

 声は相変わらず途切れ途切れだったが、今度は不思議な感覚があった。言葉だけではなく、その言葉を発している人物の姿がぼんやりと輪郭だけ浮かび上がる。

 そして、その人の名前が自然と頭へ浮かぶ。


「みより……?」


 気づけば口に出していた。


「え? 何?」


 浩子が助手席の忠史を見る。


「お母さん……みよりさんって知ってる?」


 忠史は少しためらいながら尋ねた。


「みよりさん?」


 浩子は少し眉を寄せた。

 何となく聞き覚えはある気がするものの、すぐには思い出せない。


「この黒い玉に関係してる人だと思う」


 忠史は巾着へ目を落としたまま言った。


「ええっ?」


 浩子は一瞬、言葉を失った。


(さっきは樹くんが玉と話してるみたいだったけど……まさか忠史まで……?)


 そんな考えが頭をよぎる。

 しかし今は、それよりも「みより」という名前の方が気になった。


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