(5ー17)意識を向ける
初詣を終え、四人は家へ戻った。とはいえ、玄関をくぐることはない。
浩子は車庫へ向かうと、そのまま車のエンジンをかけた。
「よし、それじゃ行きましょうか」
樹は嬉しそうに後部座席へ乗り込み、美樹がその隣へ座る。
忠史は黒い玉の入った巾着を膝に抱えながら助手席へ腰を下ろした。
車がゆっくりと家を離れる。正月らしく道には普段より車が少なく、澄んだ青空がフロントガラスいっぱいに広がっていた。
「今日はね、できれば三か所くらい見て回りたいのよね」
ハンドルを握る浩子が前を見たまま言う。
「三か所も?」
美樹が驚く。
「うん。でもね……最初に『ここだ』って思える場所だったら、そこで終わりでもいいかなって思ってる」
浩子は小さく笑った。
「なるほど」
美樹は窓の外を眺めながら言った。
「最初のところって、どのくらいで着くの?」
「一時間はかからないかな。そんなに遠くないよ」
浩子が答える。
二人の会話は続いていた。
だが、その言葉は忠史の耳にはほとんど入っていなかった。
頭の中では、さっき神社で起きた出来事が何度も繰り返されていた。
(ありがとうございます……)
(まひ……様)
あの宮司の声。
あれは確かに、自分の耳へ直接届いた。
いや、耳ではない。
頭の中へ響いた、と言った方が近い。
(どうして、あの人の声だけが聞こえたんだろう)
忠史は窓の外を眺めながら考える。
そして、ふと一つの考えにたどり着いた。
(渉さんに話しかける時は……)
意識を向ける。
すると、その思いが渉へ届く。
ということは――。
(あの宮司さんも、オレに意識を向けてきた……?)
そう考えれば説明はつく。
そして同時に、自分もそれを受け取れるようになったということだ。
(能力が発現したっていうのは……こういうことでもあるのか)
忠史は静かに息をつく。
そこまで考えた時、もう一つの疑問が浮かんだ。
(じゃあ……逆もできるってこと?)
忠史は隣で運転している浩子へ、そっと意識を向けてみた。
ほんの少しだけ。
試すように。
すると次の瞬間。
(えっと……この道をまっすぐ行って……スーパーのところを右に曲がって……)
声ではない。
思考だった。
映像のように浩子の考えが浮かぶ。
「わっ!」
忠史は思わず声を上げた。
「えっ!?」
後ろの美樹が身を乗り出す。
「なになに?」
浩子も驚いて忠史を見る。
「どうしたの!?」
少し速度を落としながら尋ねる。
「何かあった!? 車、停めようか?」
「あ……ごめん、ごめん!」
忠史は慌てて首を振った。
苦笑いを浮かべる。
「何でもないんだ」
「もう……運転中なんだからびっくりさせないでよ」
浩子はほっと息をついた。
「ごめん」
忠史も笑ってごまかした。しかし、その胸の内は穏やかではなかった。




