(5-16)初詣2
やがて順番が回ってくる。
「いっちゃん、鳴らす?」
「うん!」
樹は美樹と一緒に鈴の緒を握り、力いっぱい揺らした。
澄んだ鈴の音が境内いっぱいに響く。
四人は静かに手を合わせた。
――一年間ありがとうございました。
――今年もどうぞよろしくお願いします。
それぞれが胸の内で願いを告げる。
参拝を終え、境内脇の通路からゆっくりと出口へ向かう。
もうすぐ鳥居という、その時だった。
(ありがとうございます……まひ……様)
不意に、忠史の耳元へ声が届いた。
「えっ……?」
思わず足が止まる。
あまりにも自然に聞こえたその声は、まるで誰かがすぐ隣で囁いたようだった。
(今……)
忠史はゆっくりと振り返る。
(今『まひと様』って……言った?)
視線の先。
本殿の隣に建つ小さな社殿の前で、一人の宮司が深く頭を下げていた。
参拝客を見送るように。
いや――。
忠史には、自分へ向かって礼をしているように見えた。
「どうしたの、お兄ちゃん?」
美樹が振り返る。
浩子たちも忠史につられて足を止めた。
忠史の視線を追うと、そこにはなおも深く頭を下げている宮司の姿。
(真人様……?)
胸がどくりと鳴る。
確かに、自分は昨夜能力に目覚めた。
それなら渉と同じく「真人」と呼ばれる存在になったということなのかもしれない。だが、まだ発現してから一日も経っていない。自分自身、その現実を受け止め切れていないというのに、なぜこの宮司が知っているのだろう。
忠史は宮司から目を離せなかった。
「参拝の人たちを、お辞儀で見送ってくれてるのね」
浩子が何気なく言う。
「あれ? でも、いつもの宮司さんじゃない気がするわね」
少し首をかしげる。
深く頭を下げているので顔までは見えない。
「ねぇ、行こうよ」
樹が美樹の手を引く。
「あ、うん」
美樹もうなずく。
「お兄ちゃん、行こ」
忠史はもう一度だけ社殿を見つめ、それからゆっくり前を向いた。
(今のは……)
歩きながら、頭の中で何度も声を反芻する。
(まひと様……?)
いや。
違う気もする。
(まひこ……?)
確かにそう聞こえたような気もしていた。
そのわずかな違和感だけが、いつまでも忠史の胸に引っ掛かり続けていた。




