(5ー15)初詣1
樹にとってはまるで当たり前のことを言うような口調だった。
部屋が静まり返る。
忠史の動きも止まった。
浩子も。
美樹も。
誰もその意味がわからない。
三人の頭の中には、またしても大きな疑問符が浮かんでいた。
樹は黒い玉から浩子へと視線を移し、当たり前のように言葉を続けた。
「持っていかないとねぇ、おばちゃん」
そう言って、にこりとほほ笑む。
突然話を振られた浩子は一瞬きょとんとした。
「え? あ、ああ……」
何をどう返せばいいのかわからない。けれど、樹は冗談を言っている様子ではない。
「あ、うん、そうね。持って行きましょうね」
そう言って浩子は穏やかに笑った。
そして、台所へ向かい引き出しの中から少し厚手の紺色の巾着袋を取り出してきた。
「このまま持つよりこっちの方がいいわね」
黒い玉をそっと巾着へ納める。
ずしり、と重みが伝わった。
「これ、オレが持つよ」
忠史は巾着を受け取ると、その重さを確かめるように持ち直した。
「よし」
浩子がみんなを見回す。
「じゃあ、行こうか」
一同は玄関を出て、新年の澄んだ空気の中へ歩き出した。向かう先は、遠藤家が毎年初詣に訪れる氏神様だった。
車を使うほどの距離ではない。
歩いて十分ほど。
子どもの頃から何度も通った見慣れた道を忠史は樹と並んで歩く。樹は途中から美樹と手をつなぎ、屋根の上や木々の枝を見上げながら楽しそうに歩いていた。
「寒いけど、いい天気だねぇ」
「ほんとだね」
美樹も笑顔になる。
やがて神社へ着くと、元日らしい賑わいが迎えてくれた。
大きな神社ではない。それでも、地元の人々に長く親しまれてきた場所だけあって参道には次々と参拝客が訪れている。
境内には甘酒や焼きそば、たこ焼きなどの屋台が並び、香ばしい匂いが冬の空気に漂っていた。
「わぁ、お祭りみたい!」
樹が目を輝かせる。
鳥居の前で一礼し、四人はゆっくりと境内へ入った。
参道脇の手水舎で手と口を清め、拝殿へ続く列の最後尾へ並ぶ。前の家族の小さな子どもが眠そうに父親へ抱かれている。そんな何気ない光景を眺めながら、忠史は昨夜の出来事を思い返していた。
能力が発現したこと。
渉と意識がつながったこと。
奥袴狭へ捲ったこと。
まだ夢の続きを歩いているような、不思議な感覚が残っていた。




