(5-14)持っていかなきゃ
忠史は樹の前にしゃがみ込み、黒い玉を抱えたままの樹と目線を合わせた。
「樹、本当に『おおきいのしま』って聞こえるの?」
樹は何の迷いもなくうなずく。
「うん」
そして玉を軽く抱き寄せながらもう一度言った。
「大きいの島って言ってる」
忠史は少し考え、静かに口を開いた。
「それ……おきのしま、じゃないかな」
「おきのしま?」
樹は首をかしげる。
聞き慣れない言葉だった。
もう一度、黒い玉へ耳を近づける。
部屋中が自然と静かになる。
「おーきーのー……しーま」
樹は聞こえてくる音をそのまま口にする。
少し考えてから笑った。
「ほら。おーきーのーしま、だよ。大きいの島」
その言い方に、美樹が思わず吹き出した。
「確かにそう聞こえなくもないね」
忠史も苦笑しながら説明する。
「『大きい』じゃなくて『おき』っていう名前なんだ」
「おき?」
「うん。島根県にある『隠岐の島』っていう場所」
樹は目を丸くした。
「へぇー」
少し考え込んでから、ぱっと顔を上げる。
「あわじしま、みたいな?」
「そうそう」
忠史は笑顔でうなずく。
「淡路島みたいな感じ」
「ふーん」
樹は納得したように何度もうなずいた。
「おきのしまかぁ」
玉を見つめながらぽつりと言う。
その無邪気な一言に、その場の空気が少しだけ和らいだ。しかし忠史の頭の中はまったく逆だった。
(やっぱり……隠岐の島なんだ)
もし本当に隠岐の島にあったものだとしたら、なぜ父が持っていたのか。
「託された」とは、誰から何を託されたという意味なのか。
(というか、そもそも託されたって何だ?)
「託す」とか「託される」なんて普段から使い馴染んでいる言葉ではない。
考えれば考えるほど答えは遠ざかっていく。
それに――。
(村が小さくなったみたいって、どういうことなんだ……)
頭の中で疑問ばかりが膨らんでいく。
答えは一つも見つからない。
「ねぇ、山行くんでしょ?」
不意に樹が声を掛けた。
忠史は我に返る。
「早く行こうよ」
樹はにっこり笑う。
「あ、そうだった」
忠史も思わず笑った。
ここで考え続けても、答えが降ってくるわけではない。
むしろ今日は、その山を見るために集まったのだ。
「うん。そろそろ行こうか」
浩子も立ち上がる。
「その前に初詣ね。せっかく元旦なんだから」
美樹も笑顔で続ける。
「初詣して、それから山!」
「よし」
忠史は樹から黒い玉を受け取った。
「じゃあ、この玉は片付けて……」
そう言って、和箪笥の上へ戻そうとしたその時だった。
「え?」
樹が不思議そうな顔をする。
「それ、持っていかないの?」
忠史の手が止まる。
「え?」
樹はきょとんとした表情のまま続けた。
「持っていかなきゃわからないじゃん」




