(5-13)大きいの島
張り詰めた空気の中、忠史が静かに口を開いた。
「実は……」
浩子と美樹が同時に忠史を見る。
「その『託してよかった』っていう言葉、オレも聞いたんだ」
「えっ?」
美樹が思わず身を乗り出す。
「そうなの!? いつ?」
「昨晩……」
忠史はゆっくりと答えた。
「年が明けて、寝ようと思って布団に入った時……」
そこまで言って言葉を切る。
本当は違う。
能力が発現し、無数の声が聞こえた。
祈り。
願い。
助けを求める声。
その中に、自分へ向けられているような声。
――ありがとう。
――よろしくお願いします。
そして、
――託してよかった。
そんな声が確かにあった。
だが、それを今ここで説明するには、まだ自分の中でも整理がついていなかった。
「ええぇぇ……なにそれ……」
美樹は頭を抱え、困ったように笑う。
「どういうこと? 意味が全然わかんないんだけど……」
浩子も何か言おうと口を開きかける。
しかし言葉にならない。
夫が大切にしていた黒い玉。
夏に掛かってきた一本の電話。
そして、今度は忠史までもが同じ言葉を聞いたという。
偶然で片付けるにはあまりにも出来すぎていた。
そんな重たい空気など気にする様子もなく、樹は黒い玉を両手で抱えたまま小さく話しかけていた。
「ねえ、どこから来たの?」
まるで誰かと会話をするように優しく語り掛ける。
「どこに居たの?」
そして、そっと耳を玉へ寄せた。
部屋は静まり返る。
誰も息を殺して樹を見つめていた。
やがて樹が小さくうなずく。
「うん……」
また少し黙る。
「大きい?」
首をかしげる。
「大きいのところ?」
さらに耳を澄ませる。
「うん……」
今度は少し嬉しそうな声になる。
「島なの?」
間を置いて、
「大きいの島にあったの? そうなの」
こくりとうなずく。
樹はごく自然に会話を終えた。しかし、聞いていた三人には意味がまったくわからない。
「大きい島……?」
忠史は思わずつぶやく。
頭の中に日本地図をぼんやり浮かべた。
「あっ!」
またしても美樹が声を上げた。
「さっきも言ったあの電話!」
全員が美樹を見る。
美樹は興奮した様子で早口になる。
「あの時、お母さんと一緒に調べたじゃん!」
忠史も浩子も美樹を見つめる。
「市外局番! あれ、隠岐の島だった!」
「うん」
今度は樹が反応した。
黒い玉を見つめながら小さくうなずく。
「大きいの島にあったんだって」
その一言で部屋は再び静まり返った。
隠岐の島。
実家にかかってきた電話。
父・忠明が「託された」と言っていた黒い玉。
奥袴狭と同じだと言う樹。
それらが一本の線になり始めている。
だが、その線の先に何があるのかは、誰にもわからない。
(隠岐の島にあった村が……)
忠史は黒い玉を見つめた。
(何らかの理由でこの玉の中に圧縮された……?)
そんな話が現実にあるはずがない。
自分でも荒唐無稽だと思う。
それでも、今ここで起きている出来事をつなぎ合わせるとその考え以外に思い浮かばなかった。
答えはまだ遠い。
しかし確かに、一歩ずつ近づいている。
そんな気がしていた。




