(5-8)正直で
(なるほど……)
能力を持つ人にはそれぞれ帰る場所がある。
渉には奥袴狭がある。
だとしたら、自分にも――。
「そうか……」
思わず声が漏れる。
「そういうことなのかもしれません……」
渉も静かにうなずいた。
「そうですね……ただ、こればかりは私にもわかりません」
少し考えるように続ける。
「私はずっと『村があるから私がいる』と思っていました。もちろん父もそうだったでしょうしその前も。だから、その逆があるのかどうかは……まだ何とも言えません」
誰にも答えはない。
だからこそ、確かめていくしかなかった。
由紀は樹へ目を向ける。
「でも、もしそんな大事なことだったら……樹で大丈夫かしら」
少し心配そうな表情になる。
「えー?」
樹はすぐに口を尖らせた。
「ぼく、忠史くんと山行きたいよ!」
その無邪気な声に部屋の空気が少し和らぐ。
ハジメは苦笑しながら言った。
「樹は『根と話ができる』と言っていますし本当にできるんだろうと信じています。ですが、もしかするとこの辺りの山だけなのかもしれません」
冷静な父親らしい口調だった。
「そうなると、結果的に何の力にもなれない可能性もあります。そのことだけは頭に入れておいてください」
「もちろんです」
忠史は素直にうなずく。
「最終的に判断するのは僕や母です。樹には、ちょっとしたアドバイスをもらうくらいのつもりで考えています」
「それなら安心ですね」
ハジメも穏やかに笑った。
そして、ふと思い出したように尋ねる。
「それで……そもそもの話ですが」
「はい」
「遠藤さんの親御さんは、樹くらいの子が一緒に来ても大丈夫なんでしょうか」
その問いに忠史は一瞬言葉を失う。
確かに、その通りだった。
さっき家では「山に詳しい友人」としか話していない。
嘘ではない。
だが、母も美樹も、まさか小学生の男の子が来るとは思っていないはずだ。
少しだけ考え、そして静かに答えた。
「そこは……もう正直に話そうと思います」
自分でも不思議なくらい迷いなく口をついた。
出石のキャンプ場から山へ入り、迷って遭難しかけたこと。
山の中で樹と出会ったこと。
樹は山奥の村で暮らしていて、山のことなら誰よりも詳しいこと。
そして本人は『根と話ができる』と言っていること。
そこまで、ありのまま話そう。
新しい年を迎えた。
そして、自分の中でも新しい力が目覚めた。
だからこそ、隠すよりも今は正直でいたい。
忠史は、そう思うようになっていた。




