(5-7)支部
元日の奥袴狭も静かな朝を迎えていた。
昨夜は村中が集まり新年を迎える賑やかな声に包まれていたが、それが嘘だったかのように朝の村は穏やかな空気に満ちている。淡い光は変わらず村全体を包み込み、山から吹き下ろす冷たい風が木々の枝を静かに揺らしていた。
外にはまだ人影はなかった。
忠史は中村家の玄関まで歩いて行き、戸口の前で声を掛けた。
「おはようございます。遠藤です」
返事を待つよりも早く、家の中からバタバタと足音が聞こえてきた。
勢いよく戸が開く。
「おはよー! おめでとー! 忠史くん!」
飛び出してきた樹は、そのまま忠史の足にぎゅっと抱きついた。
「わっ」
思わずよろけそうになりながらも忠史は笑顔になる。
「おめでとうございます、樹」
頭を優しく撫でると、樹は満足そうに笑った。
「入って、入って!」
腕を引っ張られるまま家へ上がる。
居間では中村ハジメと由紀が笑顔で迎えてくれた。
「あけましておめでとうございます」
「おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
互いに新年の挨拶を交わす。
そして、その奥には渉も座っていた。渉も静かに会釈をする。
ほんの数時間前に別れたばかりなのに、こうして朝また顔を合わせることがどこか不思議だった。
ハジメが感心したように言う。
「遠藤さん、本当にすごいですね。新年早々、能力が発現するなんて」
由紀も興奮気味に続けた。
「本当にびっくりしました。渉さん以外にも捲ることができる人がいるなんて……」
言葉が途中で止まる。まだ信じ切れていないのだろう。
忠史は照れくさそうに頭をかいた。
「あ、いや……昨日の今日ですから」
苦笑しながら続ける。
「まだ全然慣れません。夢を見てるみたいな感じです」
渉が穏やかに微笑む。
「今日の樹のことは、もう皆さんにお話ししてあります」
忠史がうなずく。
「ありがとうございます」
ハジメが腕を組みながら考え込む。
「それにしても、お母さんが急に山へ興味を持ち始めたというのは……なんだかとても意味ありげですよね」
そして、少し首をかしげる。
「そうよねぇ……」
由紀も同じようにうなずいた。
「もし本当にそういうことなら、この村の支部みたいなものがそこにできるのかしら」
何気なく口にした一言だった。
しかし、その言葉は忠史の胸に深く刺さった。
(支部……)
昨夜、ヒサ子が言っていた。
――遠藤くんにも拠点が必要ってことなのかもしれないねぇ。
その時は意味がわからなかった。
だが今、由紀の「支部」という言葉を聞いた瞬間、点だったものが一本の線になった気がした。




