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(14)新宿御苑

 小道の先は、なんてことはない同じような家が少し離れて二軒並んでいるだけだった。


 ヘリじゃないのか。

 じゃあいったい?


「では遠藤さん、どこがいいですか? 東京ですよね?」と渉。


「え? あ、いや、どこでもいいですけど……新宿とか……」


「わかりました。新宿ですね」


 そう言うと、渉は少しだけ空を見上げてから続けた。


「いまから目をつぶって十数えてください。数え終わるまで目を開けてはいけませんよ」


「あ、はい、わかりました」


 何か見られたくない準備でもあるのかな? 狭い集落だし、そういうプライバシーみたいなものはこうやってお互い目をつぶって見ないようにしてるのかもな。

 そんなことを考えながら忠史は目を閉じた。


「じゃ、数えますね。いち、に、さん……」


 忠史が数え始めると、渉は右手を上げ左手を忠史の肩に置いた。そして右上の端を掴むような仕草をして、何かを掴んだまま左下へとすっと手を振り下ろす。

 まるで目の前の風景を一枚の絵に見立て、その絵を“ぺらり”とめくるような動きだった。


 その瞬間、音もなく空気が切り替わる。


 山の湿った匂いがふっと消える。

 代わりに、乾いた土と芝生の匂い。

 遠くで子どもが笑う声。

 車の走る低い連続音。


 忠史は途中で「あれ?」と違和感を覚えた。まさに空気が変わったような気がしたのだ。だが言われた通り数え続ける。


「しち、はち、きゅう、じゅう」


 数え終わる。数え終わってもしばらくは渉の「もういいですよ」を待っていた。待っていたがなかなか何も言われないので、ゆっくり目を開いた。


 広く整えられた芝生。

 規則正しく並ぶ木々。

 遠くに見える高層ビル群。


 え?

 えーーーっ!?

 どういうことだ???


 ほんの数秒前までいたはずのあの小道はどこにもない。

 渉の姿もなかった。

 忠史はしばらく立ち尽くした。


 またしても理解が追い付かない。


(いったいここはどこなんだ?)


 広い公園のようだ。そして何となく見覚えのある景色に記憶をたどる。


「あ! 新宿御苑だ!」


 忠史は御苑の中のあずまやのそばに立っていた。


 まさに言葉にならないとはこのことだった。本当にキツネが頬をつまんでるんじゃないかと思った。

 忠史はゆっくり深呼吸をした。


(夢……じゃないよな?)


 スマートフォンを取り出す。

 奥園さんにもらった仁さんの番号が登録されている。

 中村さんの名刺もある。


 あの集落は確かに存在した。

 そして、忠史は東京に帰ってきたのだ。


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