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(5-4)やるべきこと

 (ふすま)がゆっくりと開き、その向こうに渉たち四人の姿が見えた瞬間、忠史はほっと息をつき思わず声を上げた。


「あー、よかった!」


 胸に手を当てて大きく息を吐く。


「誰もいないからどうしようかと思いました。違うところへ来ちゃったのかと思って不安になってました」


 その口調があまりにも忠史らしく、緊張で張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。

 渉が静かに微笑む。


「遠藤さん、あけましておめでとうございます」


 その一言で、忠史もようやく新年を迎えたことを思い出したように表情を緩めた。


「あ! あけましておめでとうございます!」


「あけましておめでとう」


 ヒサ子は挨拶を返すが、環も本橋も驚きが大きくてなかなか声にならない。

 つい数分前までここに居なかった忠史が、今こうして奥袴狭で新年の挨拶を交わしている。その事実があまりにも不思議で、本橋は何度も忠史と渉の顔を見比べてしまう。

 そして落ち着かない様子のまま口を開いた。


「遠藤くん……あ、うん、今年もよろしく。で、今どうなの!? どんな感じなんだ?」


 医師として知りたい気持ちと一人の人間として驚いている気持ちが入り混じった声だった。

 忠史は少し困ったように笑い、そして一度息を整えてからゆっくりと言葉を選んだ。


「はい……正直言って、まだ全然気持ちの整理ができていません」


 自分の両手を見つめる。

 ほんの少し前まで、この手で空間を捲っていた。


 和室からキッチンへ。

 そして今度は、実家から奥袴狭へ。

 頭では理解しているつもりでも、心がまだ追いついていなかった。


「でも……新年だし、せっかくだから渉さんに会いたいと思って……」


 その言葉に、渉も穏やかにうなずいた。


「はい。私も遠藤さんと意識が繋がった時、とても嬉しかったです」


 少しだけ笑みを浮かべる。


「同じ能力を持つ人と繋がるのは、私も初めてですから」


 本橋は、その言葉を噛みしめるように聞いていた。


「そ、そうか……そうだよな……」


 誰に言うでもなく呟く。

 そして改めて二人を見渡した。


「渉くんの能力が固有のものじゃないことが証明されたんだ」


 少し興奮気味に続ける。


「しかも……この村だけの力ってわけでもない、ということ……だよな」


 渉の父・昭一から初めて能力の話しを聞いて以来、本橋の中にも数え切れないほどの疑問が生まれていた。

 その一つに、今ようやく答えが出た気がした。


 渉は静かにうなずく。


「そうですね」


 その視線は忠史へ向けられている。


「遠藤さんが発現したことで、私自身、知らなかったことがまた見えてくるのかもしれません」


 能力について、渉自身もまだ知らないことばかりだった。だからこそ忠史の存在は心強くもあり、新たな謎の始まりでもあった。

 その時、ヒサ子が穏やかな口調で言った。


「元気そうでよかったよ」


 忠史の前まで歩み寄る。

 そして子どもを迎えるように肩へ手を置き、腕を優しくさすった。


「たぶん、渉には渉の使命みたいなものがあってね」


 忠史の目を見つめる。


「同じように、遠藤くんにも遠藤くんのやるべきことがあるんだろう」


 そう言って、もう一度肩をぽんぽんと軽く叩く。


「うん。でもよかったよ。本当によかった」


 何度もうなずきながら微笑むヒサ子の顔は、まるでずっと帰りを待っていた家族を迎えるようだった。

 その温かさに触れた瞬間、忠史の胸に張り詰めていたものが少しだけほどける。


 ――僕の使命。

 ――僕のやるべきこと。


 その言葉の意味はまだわからない。


 能力が目覚めた理由も。

 自分に語りかけてきた声の正体も。

 父が遺した黒い玉との繋がりも。


 何一つ理解できてはいなかった。

 それでも、一つだけ確かなことがあった。


 今、この瞬間、奥袴狭へ来られてよかった。

 渉さんや、みんなに会えてよかった。


 忠史は心の底からそう思っていた。


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